君は幸せでしたか?

縞間かおる

第1話 馴れ初め

 雑司ヶ谷の霊園に彼のお墓(正確に言うと彼のお家の)はある。


 ただの市井の人に過ぎなかったのだけど、彼のお祖父さんが江戸っ子気取りで……ここにお墓を立てたそうだ。


 彼の事は……大学のサークルで後輩だったコの結婚式の二次会で紹介された。


 池袋に本店のある老舗の信用金庫にお勤めで、線が細めで物静かな印象だったけど……一夜の過ちから始まった道ならぬ恋に溺れていた私が……そこから抜け出したくて、藁にも縋る思いで始めたお付き合いだった。


 彼は非常に紳士的で、家柄?やその立ち振る舞いに私の両親はとても喜んだけれど、私自身は彼に対して“暖簾に腕押し”みたいな違和感があって、お付き合いはしたもののなかなか先に進めずに居た。

 でも、お付き合いを始めてちょうど半年後、彼はご両親を伴って我が家を訪れ、彼から正式に結婚を申し込まれた。


 オンナとしては……元カレにまだまだ未練があったけれど……元カレとの不毛な関係を知る私のごく親しい友人たちが口を揃えて「元カレを断ち切るいい機会だから」とこの“お話”を後押ししたので……結局、彼のプロポーズを受ける事にした。


 それからの私は彼に積極的になり、土、日だけで無く平日もデートをする為に、忙しい彼の負担にならない様にと電車を乗り継ぎ、池袋に足繁く通った。

 エンゲージリングだってティフ●ニー西武池袋店で選び、今年の5月に結納を取り交わした。


 そういえば、去年のクリスマスイヴは家で過ごしたんだ。

 クリスマスは元カレと逢えたけど、を交えた僅か数時間。

 その体の火照りを冷ましたのは、独りで座ったラブホ近くの公園のベンチだった。


「今年のクリスマスイヴはきっとこの人と……」

 私の目の前でお行儀よく料理を口に運ぶ彼を見て、次に自分の左手に視線を移す。

 薬指の真新しいエンゲージリングがお店の照明を集めてまばゆく光っている。


「ああ!今、私は明るい光の中でキラキラと輝いているんだ!もう、真っ暗なベンチに独り座っている私じゃないんだ!」

 幸せとワインに上気した私は……自分から彼を“お誘い”した。


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