猫獣人の女の子がシャワー室で妖精にケモ手ケモ足を貰う話

三毛狐

第1話

 スイッチを捻るとアツアツのお湯がシャワーとなった。


 目をつぶって頭から浴びていく。

 手先足先が一段階お湯を熱く感じ、頭部の猫耳がピクンと震えた。


 すっかり冷え切っていたのだと自覚する。


 そのままあたたまるまでお湯の温度を味わってからシャンプーを手に取る。

 運動しやすいよう肩辺りまで短めにしている黒い髪の毛を指で梳くように洗っていく。


 本来のわたしは長毛種だから、腰ぐらいまではすぐ伸びてしまう。

 でも水中を泳いでお魚を獲るのに邪魔だから仕方が無い。


 我ながら女性らしい丸みを帯びつつも、しなやかに筋肉をつけたと思っている。


 日々の運動の賜物だ。

 運動、即ち狩り。

 おさかなだ。


 そう、わたしは今年で11歳になる猫獣人。成長期なのだ。

 何よりも食欲がまさる。


 でも、と溜息がこぼれる。

 どうしても手足が冷えてしまうから、今の季節は長く泳げなくて困っていた。


 あのやたら伸びる髪が――

 物語のネコミミキャラのように手足のフサフサなケモ手ケモ足になってくれたらいいのに――


 今日もそんな事を考えてしまう。


(できるよ!)


「ひゃっ」


 目を開けると、まるくてヒレが生えているナニカが飛んでいた。

 え、空飛ぶ魚!?


 いやちがうこれは……ヒレじゃない、羽だ!


 トリの降臨だった。


(ボクは女湯の妖精さ。それ!)


 手足の先が水を吸って少し重くなった。

 視線を向けると頭部と同じ質の毛が生え、人類らしい手先足先が、獣のそれへと変わっていた。


 判りやすくいうと、両手両足に黒毛で包まれた大きな肉球が生えていた。


「にゃぁぁぁぁ!?」


(願いは叶えたよ。さらば!)


 トリはひときわ輝くと、そのまま消えた。

 え、妖精? ええ……?


「……でもこれで長く水中にいられるかにゃ」


 ひとり残されたシャワー室でわたしはポカンとするのだった。


 翌日。


 大人たちからは先祖がえりだと驚かれたが、水中の狩りをいつもより長く続けられたので満足した。

 泳ぐスピードも心なし上がっていたと思う。


「おさかな美味しいにゃー」


 ニコニコとご機嫌になり、串にさして焼いたお魚をパクパクと食べる。

 手が肉球になっても困ることはなかった。

 

 いつもよりお魚を沢山とれた!


 わたしのニコニコが止まらない。

 明日からの狩りも楽しみだった。


 謎のトリに感謝にゃ!

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