第12話 そんな終わり方

 ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう。


 グルービーの腹から止まることなく血が流れ続けている。かろうじて意識を保っちゃいるが、傷口を押さえるその手が力を失うのも時間の問題だった。


 市場帰りの女たちが顔を寄せ、口元を荒れた手で隠しながら、その荒れた手よりも酷いことを口にしている。

 口元は隠せても、その薄汚い品性までは隠せねえみてえだな。


 うしろ指をさされる。見知らぬ誰かが笑う。

 そんなことは慣れっこだ。それでも友達が死にそうな場面となったら話は別だ。

 自業自得だ?いい気味だ?

 てめえらのツラはひとり残らずおぼえたからな。

 覚悟しとけよ。


「クソ!友達?」


「ああ?ハッチ、テメエこんなときに、なにを訳のわからないことを言ってやがる。」


「うるせえ!黙ってろ馬鹿!」


 こんな間抜けツラをしたマーチンは初めてだ。おそらく俺も同じようなツラをしてんだろうな。常日頃目障りだった間抜けな三人組が泡くって、間抜けヅラ晒しておたおたしてんだ。奴らにしてみりゃ愉快痛快ってもんだ。


「マジで急いでくれよハッチ……。グルービーに万が一があったら俺はよう……。」


 情けねえ声を出すんじゃねえ。奴らをこれ以上喜ばせるな。


「万が一もクソもあるもんか。グルービーは助かる。グルービーをこんな目にあわせた奴を見つけ出して殺す。ついでにガルシアも殺る。それで俺たちゃ自由だ。」


 忘れるな。今笑ってる奴らも全員だ。


「へへ、ガルシアを殺る?テメエ正気か?勝てるはずねえだろ。」


 マーチンが楽しそうに笑う。テメエも大概の大馬鹿野郎だ。


「ガルシアをやったらよ、町を出ようぜ。」


 旅に出るんだ。


「あ?テメエは町を出たらもうどこの町にも入れねえんだぞ。」


 等級外民……。身分証も無く、法の加護も無い男。


「いいんだよ。俺は馬車に乗って行けるところまで行くんだ。お前らは好きにしたらいい。そうだな、王都にでも行って都会の女とやってこいよ。」


 こんな寂れた町の娼婦とはきっと違うさ。


「へっ、女なんてどこでも変わらねえだろ。それよりよ、俺は船に乗ってみてえ。デケエ船だ。船に乗って別の大陸に行くんだ。そこでならお前だって入れる町がきっとあるぜ。」


 なんだよ馬鹿野郎。少ねえ脳ミソで気を使うんじゃねえよ。


「なんだハッチ?オマエ泣いてんのか?」


「泣くか!いいから足を動かせ。」


「へへ、いいことを思いついたぜ。ガルシアのちょび髭を殺ったらよ、ママのところに行って有り金全部むしり取ってやろうぜ。」


 マーチンの野郎どうしたんだ?ナイスアイデアを連発しやがる。そうだな、あのババアにもきっちりお礼はしなきゃならねえ。


 急に楽しみが増えやがった。

 上手くいかなくったっていいよな。

 考えてみろよ。そう悪くないぜ。

 ションベン撒き散らして、命乞いしながら三人揃って惨めにおっ死ぬ。。

 そんな終わり方だ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る