電気屋へ

 時刻は16:56、路面電車的な公共交通機関たる市電に揺られる最中。

 次の駅が目視できた。ちょうど降りる駅。私は1分以内に着くだろうと予測した。平日の夕方、座席こそ埋まっているが人はあまりおらず、制服を着た子供達のひそひそ声が車内に響く。やけに丈の短いテカテカの半ズボンの上に乗せた本を隣から覗き込み、指を指し、ひそひそ。時刻は16:58な今、停車。同時に数人が下車列を形成する。先頭をもらった子供達は手際良く本を手提げ袋に入れて下車。定期券らしきカードをタッチするとピッと電子音がなる。しかし、すでに側車窓の彼方。

 私も続こう。出口の近くに貼ってあった運賃表を眺めながら膨らんだ財布に手を突っ込み運賃を引っ張り出そうした。額ににじんだ汗一滴の、鼻先からこぼれるのを感じた。

 

 すこし恥ずかしかった。料金ちょうど、財布にあった。でも十円が最小単位の両替機でもある料金箱だった、あそこに果たして五円玉を入れても良いのか?つまり両替して難を逃れたというわけだ。子供を眺めている場合ではなかった……。

 ただ、後ろに並んでいる人がいて迷惑かけてるような気がして変に焦ることがなかったという点で恥ずかしさはすこしだったとしておこう。

 

 屋根と乗降場だけのシンプルな作りをした駅からはここらの街並みが良く見える。

 コンビニがすぐ近くにあり、線路を挟んで対岸には道の駅的なごく小規模な商業施設がある。ここから見るにそれは商店街を線とした時点と言えるような施設。何屋があるのか全くわからない。何も店てくれないのは、ちょっとカナシー。

 ここに留まる理由はないので、歩き始める。二、三センチの礫が所々に浮かぶ地面を踏みしめながら公園に踏み入ると、地蔵のような石像が見える。

 膝ほどしかない背で、安山岩のような岩でできているようだった。ひんやりすべすべで、靴下かのようにふかふかの苔が足下を埋めている。頭のてっぺんには五円だのが置かれていた。

 石像からすこし離れ、正面を今一度見た。これは地蔵ではないということにやっと気づいた。体の前に大きなしゃもじを持っていたのを見るに、田の神なのだろう。地蔵とほとんど違いがないのはすこし面白いし、写真を撮らせてもらおうかな。

 さらに、歩いて中規模にギリギリ満たない程度の商業施設に到着した。ちなみにこの道中で、電車でいっしょになったあの子供達と会って「かみつきじじい」とやらの話を聞いた。多分適当な作り話だろうと思ったが、割に面白くてちゃんと聞いてしまった。

 私が今日ここにきたの目的。それはここの電気屋の予約しておいた品の受け取りだ。だが、それ以外に色々楽しめたしいい散歩であったと思う。

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