おさないこどもたちには、『ようせい』がみえている
遊多
おさないこどもたちには、『ようせい』がみえている
ちいさい子どもたちには、『ようせい』か見えているようです。
ある日、サチコちゃんが青空と話していました。
「サッちゃん、誰とお話ししているのかな?」
「ようせいさん!!」
いちばんちいさなサチコちゃんは、げんきにそう言いました。
つづけて、ふしぎそうにきいてきました。
「せんせいには、みえないの?」
「えっ……う、うん。見えないなぁ」
こまったように、先生は言いました。
先生は、ようせいを見たことがありません。
むかしは見えていたけど、もう忘れてしまったのかもしれません。
「……私にも見えないかな」
ぼそっと、ひとり、せんせいはつぶやいていました。
◇◇◇
きょうは、ミサちゃんがおそらをながめていました。
「ありがとう、ようせいさん!!」
ミサちゃんは、きらきらしたえがおで手をふっています。
まるで、おそらからだれかが手をふりかえしているようでした。
「ってことがあって。不思議ですよね」
「あ、それ! タロウくんも、サトシくんも、見えたって言ってましたよ」
「まさか。集団幻覚ではないですよね?」
「それは無いと思います。わたしも子供の頃は見えていたので」
「えっ」
ほかの先生のことばに、先生は「どきり」としました。
こころのどこかで「どうしてじぶんだけ見えないのだろう」とおもっているようです。
「でも、危ないものじゃ」
「まさか。何でも妖精が見えると、幸せになれるんですって」
「幸せ?」
「ちょっとだけ、幸せになるんです。その日はお菓子をいっぱい食べてもよかったり、ゲームをたくさんできたり、友達ができたり」
「あっ、僕も見たことあります! 小さい頃、空にフワフワって浮かんでて。懐かしいなぁ〜」
ほかの先生たちは、むかしのしあわせをなつかしみ、こどもにもどったようにわらいあっていました。
まわりとはちがう。先生は、ひとり手のひらをギュッとにぎりしめています。
「……私だけか」
その日も、先生にようせいは見えませんでした。
◇◇◇
ようせいは今日もみえない。
とけいのはりは、もうてっぺんをまわっている。
「くそッ、なんで私だけ残業なんだ……」
わるぐちをはいていた。よいこではない、わかっている。
まいにちまいにち、おそくまでのこって、あたまのいかれたおとなにあたまを下げて。
それで、いえにかえってきてもねるだけ。いや、ねているのだろうか。ずっとねぶそくだ。
「辞めたい、けど奨学金が残ってる……」
せんせいのしあわせは何? どうやって手にできるの? かれしも、いつできたっけ。
ようせいは今日も見えない。しあわせをはこんできてくれるはずもない。
◇◇◇
脳味噌がグルグルしている。
おでこを中心に魂を吸い出されている最悪な感覚が消えない。
(うるさい、うるさい、うるさい)
子供の騒音。電話の音。子供の騒音。
だめだ。私は大人だ。耐えなければ。働かないと。奨学金もある。
(やめたい、やめたい、やめたい)
妖精は見えない。私は大人だから。
正気を捨てろ。私は先生だろ。
今日も頭を下げて、同僚の仕事を押し付けられて、遅くまで残って、帰って、目を閉じて、また朝になって……。
◇◇◇
「〇〇ちゃんママの対応、お願いね」
「せんせー、わるいかいじんやくねー!」
「家族いないんでしょ、今日も残ってくれるかな?」
「せんせー、おなかすいたーー」
◇◇◇
先生にも『ようせい』が見えました。
「わあっ、ほんとうにいたんだ!!」
キラキラ、ふわふわ。ようせいさんにみちびかれ、クルクルおどってシアワセへ。
「あはは、まって、まって!」
ようせいさんをおいかける。
ようせいさんをギュッとする。
ようせいさんはきえちゃった。だけどだいじょうぶ、まだようせいさんはたくさんいます。
「しあわせ! しあわせ、しあわせ!!」
わたしは、わらっていました。
おりからかいほうされたどうぶつのように。
おかしのいえにきたこどものように。
のはらをかけまわって、たくさんたべて、わたし、こころがどんどんみたされてく。
そっか。ずっと、こうしたかったんだ。
「しあわせ、シアワセ、シアワセ、」
シアワセ、シアワセ、シアワセ、シアワセ、シアワセ、シアワセ、シアワセ、シアワセ、シアワセ、シアワセ、シアワセ、シアワセ、シアワセ、シアワセ、シアワセ、シアワセ
「あぁ〜……シアワセ」
いつの間にか、妖精は見えなくなっていた。
◇◇◇
『……次のニュースです。あおぞら幼稚園では損傷の激しい遺体が複数見つかっており、警察は猟奇的な殺人事件として、引き続き捜査を行なっているとのことです。次のニュースです……』
おさないこどもたちには、『ようせい』がみえている 遊多 @seal_yuta
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