虚食

祭煙禍 薬

虚食

 甘味も理解できる

 辛味も理解できる

 酸味も理解できる

 塩味も、苦味も、旨味も理解できる。

 まだ味の感覚は生きている。

 ただ美味しいという味が理解できなかった。


 ある人は言った。甘いは至高だと甘い物は美味しいと。かの人は言った。辛さこそ正義だと辛い物は美味いんだと。

 僕は彼らに従い勧めるものを口にした。

 それらの味は、彼らの言う通り甘みがあり、辛みがあった。しかし美味いとは思えなかった。さる人も、あの人も美味しさについて語っていた。その全てを僕は試した。

  しかし、満たされなかった。美味しいという味が分からなかった。それでも彼らの言わんとしていることは理解できるのだ。何々という味が美味しいと皆言っている。

 その味を感じることは出来る。しかしなぜそれが美味しいのかが理解できない。恐らく常人より鮮明に味を感じることが出来ているのだ。たとえ味わうほどに味が欠けていったとしても。


 味覚ではなく食事が悪いのかもしれないから色んな料理を食べた。

 最高級の料理を食べた。美味いと評判の料理を食べた、子供の頃美味しいと感じた食事をした。それでも満たされなかった。


 そのような食事に慣れても再び美味しい食事をしたかった。段々と失われていったあの感動ををもう一度。しかし美味しさには糖度が○○以上なら美味しいとか、■■が作ったものなら美味しいとか、△△が入っているなら美味しいとか、そういった定義はなかった。


 考えうる手は全て尽くした。それでも美味しいと感じない原因が分からない、。老若男女、貧しい者も富める者も美味しいと感じることが出来る。なら何故、僕だけが感じない。

 もしこれが何故なのか分かるなら教えてくれ。説明してくれ。いや無駄か、どうせ美味しいものは美味しいから美味しいとか甘いから美味しいとかいうんだろう?


 きっと、ずっとこのままなんだ。

 死ぬことのないこの症状は病気でもないし名前もなかった。


 今日も美味しさを感じることが出来なかった僕は、絶望し友達からの貰い物を食べた。

 美味しくはなかったがそれは温かい味がした。

 少しだけまたそれを食べたいと思った。

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虚食 祭煙禍 薬 @banmeshi

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