妖精探し
ヤマメさくら
第1話
妖精を見つける仕事を、僕は毎日している。
植え込みの葉の裏を覗いたり、誰も行かない、脇道の奥の突き当たりまで見に行ったり。
なかなか、見つからない。
「もう、探すのをやめたら? どうせ、いないよ」
いや、必ずいるよ。以前、見つけたことがあるしね。
「幻覚」
そう思う人には妖精は見えないよ。
僕は笑う。
「見つけたら、どうするの?」
さあ、たぶん、捕まえて……。
「捕まえて?」
閉じ込めるのかな、それとも、解き放つのかな?
「決まってないんだね」
うん。
「ずっと、探すんだね?」
うん。
「あきらめないんだね?」
うん。
「……」
私には、妖精を探す人が見える。
皆は、見えないって言う。
私は、一生懸命、その人について説明する。
その人は、すごいんだよ。
あきらめないんだよ。
ずっとずっと探すんだよ。
たぶん、私がいなくなっても、妖精を探し続ける。
私があきらめても、その人はあきらめない。
「だったら、あなたにもあきらめないでほしいな」
どうして?
「その人は、あなたにしか見えない。あなたがいなくなって、あなたがその人を見なくなったら、その人の存在がなくなってしまう。他の人にはその人が見えないから。その人があきらめていないことも、皆には分からなくなる」
……私が見ないと、その人は、存在が消えてしまう。
「うん」
生きられなくなる?
「うん」
…………生きて、ほしいな。
今日も、彼女は僕のそばにいる。
僕が妖精を探す様子を眺めている。
最近は、眺めながら、手にしたペンとノートで、何かを書いている。
珍しく、僕の方から声をかけてみる――何を書いてるの?
「あなたのこと」
僕?
「うん。あなたが生きてることを知ってもらうの」
誰に?
「誰に……」
彼女はノートに落としていた目を上げる。
僕を見て、そして空に目をやる。
何かを考え込んでいるような顔。
しばらくして、彼女は目線を僕に戻す。
「自分に。あきらめそうになる自分に。あなたが生きていることを伝えるの。私があなたに生きていてほしいことを伝えるの」
そうなの?
思わず、僕は笑いそうになる。
だって、彼女はなんだか大げさだから。
でも、笑わない。
彼女はとても真剣だから。
「その人は、今日も妖精を探していますか?」
探しています。ずっと。
妖精探し ヤマメさくら @magutan
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