第2話
オレの名前はヴェスペル。
死神になって、まだ数年。
まぁ、死神って言ってもいきなりポンと現れたわけじゃなくて、ちゃんと経緯があって今ここにいるわけだけど。
ともかく、新入りってことは、当然先輩もいる。
で、今オレはその先輩に愚痴をこぼしてる最中ってわけ。
「マジ納得いかなくね? オレらがちゃんと魂回収してんのに、怖がられるだけでさ、天使はいいとこ取りじゃん」
先輩、名前はダルクっていうんだけど、見た目はオレとそう変わんねぇ若造って感じ。
実際はとんでもなく長くこの仕事してるらしい。
少なくとも何百年って単位で。
オレが「死神歴まだ数年」とか言ってるのがバカみてぇに思えてくる。
「お前もまだまだガキだなぁ」
って、呑気に笑いやがる。
「いや、マジでズルくね? オレが迎えに行くと『来ないで!』とか言われんのに、天使が来ると『ありがとうございます!』って泣いて感謝されるの、理不尽じゃね?」
「確かに理不尽だな」
「だろ? なのに、なんでアンタはそんな余裕ぶってんの」
ダルク先輩は、黒いローブをひらひらさせながら肩をすくめた。
「まぁ、慣れたってのもあるけどよ」
「オレはまだ慣れねぇ……っつーか、慣れたくねぇ。もうちょっとこう、死神の評価が上がってもよくね?」
「無理だな」
「即答かよ」
ダルク先輩は、少しだけ笑いながら言った
「ヴェスペル、お前さ――病気が流行って、バタバタ人が死ぬ時とか想像してみ?」
「……んー?」
「例えばそうだな。お前が迎えに行ったら、家の中で家族が何人も死んでる。親が死んで、次に子どもが死んで、最後に残った奴がガタガタ震えながら死神を見上げる。そいつの目には、死んでいった家族の最期の姿が焼き付いてるわけだ」
「…………」
「そんな時、お前がどんな顔してようが、どんな言葉をかけようが、そいつにとっては"死"の象徴でしかないんだよ」
……なるほどな。
たとえば、医者がどんなに患者を救おうとしても、死んじまったら「助けてくれなかった」って思われることもあるって話を聞いたことがある。
それと似たようなもんかもしれねぇ…のか?
死神がやってることは必要なことだし、絶対になくちゃならねぇものなのに、どうしたって"死"のイメージからは逃れられない。
「それでも、お前が仕事をしなきゃ、魂は迷う。迷えば、悪霊になる」
「……わかってるっての」
「だろ? だから、死神ってのは黙々とやるしかねぇんだよ」
ダルク先輩はそう言うと、ふっと立ち上がった。
「まぁ、納得いかねぇ気持ちもわかるけどな。俺も昔は、お前と同じこと考えてたよ」
「……ほんとか?」
「ああ。何百年もやってりゃ、どうでもよくなったけどな」
おいおい、何百年やってればそうなるのかよ。
オレ、何百年も経って同じこと思わなくなれる気がしねぇんだけど……。
そんなことを考えてると、ダルク先輩が少し真面目な顔になって言った。
「ま、せいぜい頑張れよ、新入り」
「クソ、やっぱり納得いかねぇ……」
そうぼやきながら、オレは空を見上げた。
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