魂の回収人、今日も行く。

くらむ

第1話

――死神だって、ちゃんとやってんのに。


唐突だが死神の仕事ってのは、ハッキリ言って地味だ。

死んだ魂を回収して、罪が裁かれる場所まで送る、それだけ。

「悪人は地獄で、善人は天国へ行くんでしょ?」

まぁそうだ。

でも死後の行き先を決めるのは天使でもオレらでもなくもっと上の連中だし、オレはただ粛々と魂を集めるだけ。

けど、これをしねぇとどうなるか。

答えは簡単、魂は迷って悪霊になる。

だから、オレたち死神は善人だろうが悪人だろうが関係なく、死んだらすぐ魂を回収する。

オレらが回収しねぇと、優しいおばあちゃんの魂だって、あっという間に恨みとか未練に飲まれて化け物になっちまうんだ。

なのにさ。

「――あっ……!」

オレが現れた瞬間、ベッドの上の老婆が目を見開いて、苦しそうな息のまま体を震わせた。指は痩せ細り、皺だらけの顔に恐怖の色が広がっていく。

「いや……来ないで……!」

心臓が止まる直前、ほとんどの人間がこうなる。

オレを見るだけで、怯えて、泣いて、時には取り乱して、命が尽きる瞬間まで拒絶する。

まぁ、わかるよ? 死ぬのが怖いのは当たり前だし、黒いローブ着てるオレが来たらビビるのも仕方ねぇ。

けどさ、それってマジで心外なんだよな。

オレは脅しに来たんじゃねぇ。

ちゃんと次に行けるように迎えに来てやってんだよ。


 ……それなのに、天使が来るとさ?

「天使様…ありがとうございます…」

って、何? どういうこと??

迎えに来たのは、白い翼を持ったキラキラした天使様。

「ええ、あなたは生前、多くの人に愛を与えました。天の国へご案内します」

……いやいやいや、ちょっと待てよ。

天使は一部の人間、しかも神に連れてこいって言われた奴だけ迎えに来りゃいいから楽かもしんねぇけど、オレらは死者の魂全部回収してんの!

それに...あんま言わない方がいいけど悪魔なんかより天使と神々の方が人間殺してんのに...

それなのに、なに?

『天使様ありがとうございます!』

って?

オレが来た時は「来ないで……!」だったのに?

……ズルくね??

オレ、こんな地味な仕事してんのに、「死神」とか怖がられるだけじゃん。

せめてちょっとくらい感謝されてもよくね?


 ――そう思うの、オレだけか?

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