アウェイキングブルース
花森遊梨(はなもりゆうり)
ーパンドラ・オープナーー
ブルーな気分というと、人はネガティブという。全くおかしな話だとは思わないだろうか? 朝食として缶入りコンデンスミルクを直に食べながら思う 。
青色には冷たい・涼しいといった印象があり、季節によっては冷静、悲しみをもたらしてくれる。自然界の食べ物にはありえない色合いと後ろ指を指されるが、それだって食欲を抑えてダイエットに使える。自営業ならば税金が大幅に安くなる希望とか、経理や確定申告に時間を取られることもない幸福など、様々な明るい可能性を見出す色、それがブルーなのだ。
なぜネガティブなのか? ビタミン剤を水で流し込みながらまた思う 全てはインドかアフリカから連れてこられた奴隷たちの概念だったからだ。そう、強制的に働かされてお金すらもらえなかった人間たちはどういうわけか空が青いと憂鬱になり、色々あってブルースまで奏でていたらしい、古い時代の奴隷とはあれだけ悲しいとか絶望的な話ばかり喧伝しといて私より随分愉快な暮らしを送れる身分だったらしい。
今日の天気は曇り、だけどブルーな気分だ。今を生きる真の奴隷がここにいる。
就活の時からの付き合いのスーツに同じくらいの付き合いのリュック、スニーカーだが革靴に見えるブランド物のエアソールシューズ。スーツに合わせても違和感がない。社会人になってからも、就活時と同様の「初期装備統一」である。この職場は、そして私はオフィスカジュアルが、つまりは「金と人間関係と責任が乱れ飛ぶ社会で戦えるように私服を組み合わせて使い分ける」という高等テクなどできないため、オフィスカジュアルからカジュアルを抜いたような恰好のままであった。
申し遅れたが、私は
そんな会社なので一般事務なんぞ「無差別級」と同義である。 TRPG会社からの電話対応を取り次いだら担当者が突然狂気に陥ることもあり、製薬会社からの来客が感染性の歩く死体とトレンチコートの巨漢(アイアンクローで人が死ぬ)であることもあるし、「Excel破壊お姉ちゃん」をやったらその日にエンターテインメント企業のサーバーが丸ごと落ちたがその原因は不明であり、と一般の二文字の奥には真っ青な深淵が広がり、不機嫌なイカ耳猫のようにこちらを見つめ返している。それが一般事務である 「枯奈美、お疲れ様」「お疲れ様です、係長」 彼女は
近藤
お風呂BAR エイミン 風呂と同じ設備でアルコールを提供し、風呂上がりの液体窒素アイスがウリ、そんな人命を軽々扱う無謀でマッチョなスタンスがウリの 「ストロングHtoHを二つ、急いで」 300円もするのに注文したとたん客の目の前で冷蔵庫から出したストロングチューハイロング缶二本を片手で開けてグラスに注ぎ、空き缶をカウンター奥のごみ箱にバックシュートしておいて何食わぬ顔で出すのだけはいただけない。 「ああ……‼︎今日まで死なずに生きた甲斐があったな~~~♪」「こんな美味しそうにお酒を飲むなんて、少し前まで死にかけていたのが嘘みたいですよ」 ほんの二ヶ月前、アキナは死にかけていた。管理職とは生き地獄。そして他人に地獄を与え、やがて歩く場所全てを阿鼻叫喚と怨嗟の声溢れる地獄に変える業の仕事である。私とほぼ同期ながらそんな立場になったアキナの目からは生気が消え、精神はノイローゼ、前のように部署は私が回していた時代があった。
ギリギリで回せている仕事というのはいつ支障がでるかわからないということであり、係長がこの後電車に全身を強打、オフィスで練炭の煙に包まれ「我が生涯にいっぺんの悔いなし」と昇天したりした場合、私にお鉢が回ってくるのだ 何故なら以前、係長の代理としてうっかり自分の所属部署を1週間も回してしまい、その時立ち上げた「貴金属取扱、それも人間と同じで出自を問わずに取り扱う」事業が今は白秋出版の屋台骨の一角となった。もう誰にも大学中退と後ろ指を差されなくなるのと引き換えに、いざという時仕事と上司にマワされて新宿あたりの生ゴミ置き場に放置される立場となってしまったのだ。
そんなわけで一度上司になった元同期には永遠に上司でいてもらわなければ困る。 私は迷わずにアキナの手を取った 「今はまだ仕事の時間よ、外に出るわけには」「係長、今のオフィスは部長が大災害の時の対策本部を真似て作った。つまり誰がどんな仕事をしてどんな権限や知識を持ってるか誰も知らないトップは大きな組織を動かした経験がないために生まれた働いたら負け空間なんですよ。アキナは会社の都合で働けない女王にされたんだから意趣返しも兼ねてこの機会に働かないクイーンと働かないプリンセスのダブル受賞を狙おう!」と新規事業立ち上げの際に思い知っていた私は、アキナを外回り用の社用車に押し込むと、外回りと称してこの場所に連れ込んだのだ。
お風呂BAR エイミン
「そう、あの時枯奈美が動いてくれたから今の私があるのよ」 パンドラの箱を開いてしまったことに薮は気づいていなかった 「だから週末に、一緒に行きたいところがあるの」 週末空が青いのに憂鬱である。つまりどこに出しても恥ずかしくない奴隷同然である。勤め先の事業も手広さも踏まえると、いよいよ一次産業と称して綿花やカンナビノイド含有率高すぎ植物を摘む仕事か、むしろ肉とか女を使う仕事が待っている… なんてことはなかった 「アキナのバカ野郎!なんで降りなきゃいけない山にわざわざ登るんだバカヤロー!!!」 登山装備を買い与えられて富士山に登っていた。 「富士山はね、私にとって特別な場所なの。私の誘いを全員で断った友人どもがラブホで女子会をした末に私が富士山の頂上に立った時にSNSで彼氏できた報告をぶちかまされた怨念の山‼︎今の私には枯奈美という同志がいる‼︎そのことをこの高いだけの山に見せつけてやるのよ‼︎」 上司のメンタルダウンは防がれ、私は永遠の平社員として責任はかるけれども無差別級な仕事だけをして会社の金を掠め取れる身分を手にしたが、プライベートに露奈という災厄が降り注いだ そして私から蒸発したと思って久しかったモノがムクムクと鎌首をもたげてきたのだ。
「まずは係長かな、実績もあるし」
出世欲であった。私だけが地獄を味わうのは不公平。そして不公平を正し、自分以外をそれ以上の地獄に沈める手段を会社は用意している。他人に合法的に地獄を味あわせることができるのならば、そうする以上の道はなし。
かつて、パンドラは「結婚相手の家にあった箱を開けてみた」という今の動画投稿者感覚で余計なことをしてしまい、そこから様々な災いが世界に飛び散った。そして彼女を箱の中に残る「何か」が慰めた。それこそが「希望」であった。
「レジャーに仕事を持ち込むと、ろくな事にならないわよ」「仕事よりきついものに平気で人を巻き込んで眉ひとつ動かさずにそんなことを言えるのってまさにブラック企業の管理職のメンタルって気がしますよ‼︎」
そしてその「希望」こそが、人を災い溢れる世界に今も縛り付け、人々をやがて自らの手で新たな災厄を生む生きた災いへと貶める「災い」であったと言われている…
アウェイキングブルース 花森遊梨(はなもりゆうり) @STRENGH081224
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