第15話

…自分で『クラゲ』と言ってたわりには、感動の薄そうな反応ね。


むしろ予想外に私が喜んでるじゃないの。




「仙太郎」



「はい」



「笑ってごらんなさい」




距離を詰めて、じっと仙太郎の双眸を見つめる。


数秒、お互い視線を逸らさず動きを止めていたけれど。




「ここで笑いだしたら、周囲の方にご迷惑だと思いますよ」



「別に声を上げて笑えとは言ってないわ」




誰がそんな本格的に笑えって言ったのよ。


ちょっと口角を上げる程度でいいのよ。




「そんなことより、ここで立ち止まっているのもご迷惑ですよ」




仙太郎に言われて、自分達がミズクラゲの水槽の前でずっと立っていたことを思い出す。


ああ、これはマナー違反ね。


うっかりしてたわ。




「次の水槽に行くわよ仙太郎」



「はい」




結局は、仙太郎の笑みなんて見られないまま。


肌を照らす光の粒を払うようにして、ミズクラゲのいる水槽の前から離れた。


隣の大きな水槽では、アカクラゲが触手を靡かせて泳いでいる。


揺れ落ちるように沈んで、また緩やかに浮上して。


…ままならないわね、本当に。




「クラゲだけでこんなに種類がいるなら、イルカショーまでずっと時間を潰せそうね」




私が見たいものを見に行くより、仙太郎も楽しめるかしら。


「そうですね」と答える仙太郎の表情からは、やっぱり感情を読むことができなかった。

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