第13話

「仙太郎」



「はい」



「貴方、何か見たいものはないの」




他のカップルは、大体「次は何見る?」って2人で見るものを決めてるのよ。


でも今日の水族館デートの予定の中には、『仙太郎の見たいもの』が入ってないじゃない…!




「俺ですか?」



「そうよ。そう聞いてるでしょう」




じっと答えを待っていれば、仙太郎は逡巡するように僅かに視線を落とす。


…ああ、その表情は好きだわ。


こうして考えてる時の仙太郎は、私の従者をやめているもの。


貴方はいったい、いつまで…。




「……クラゲですかね」



「クラゲ…!?」




何故、あえてクラゲ…!?


魚でも哺乳類でもなく…!




「貴方、クラゲが好きだったの?」



「まぁ、そうですかね」




曖昧…!


何よその別段好きでもなさそうな口振りは…!




「でもお嬢様が気乗りしないのであれば、」



「っ、そんなこと言ってないでしょう。クラゲを見に行くわよ」




仙太郎の言葉を遮って、次の目的地を決定する。


「場所は?」と尋ねれば、仙太郎は「こちらです」とエスコートのために私の手を取った。


その流れがあまりにも自然で、仙太郎は恋人らしく手を繋ぐなんて考えを持ち合わせていないんだろうと薄っすら思う。


仙太郎の意識を変えさせるには、どうするのが1番いいのかしら。


朝からずっと同じことばかり考えているせいで、頭どころか足まで痛いような気がしてきたわ。

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