第6話
そもそも女性が階段の前にいたら、手を差し出すのが礼儀じゃないの。
付き合ってる女性に対して、どうして手を差し出さないなんていう選択肢があるのよ。
普通はしないの?
普通ってなんなの?
ぐるぐると考え込んでいれば、「お嬢様?」と仙太郎に声をかけられる。
「どうかしました?」
「…なんでもないわ」
別にいつものことよ。
私だって『普通のデート』くらいできるもの。
でも階段だったから!
階段は仕方ないの!
中に入ったらもう『普通』にするわよそれでいいんでしょ!?
「行くわよ仙太郎」
「はい」
階段を上がりきって、重ねていた手を解く。
扉を潜って館内へ入れば、すぐに正面にある大きな水槽が目に入った。
仄暗い館内では、淡く色付いた蒼い光が映える。
「何が見たいんです?」
「カワウソを見るわ!あとイルカとラッコと、それからアシカね」
「…哺乳類ばっかですね」
「あら、どれも水族館じゃないと見られないでしょう」
意気揚々と答えれば、仙太郎は私を見下ろしてふっと微かに笑う。
珍しい笑みを見た瞬間に、どうしてか胸が軋んだ。
…ヒールのせいで、いつもより顔が近いからかしら。
慣れない距離で見慣れない表情を見たせいで、変に驚いたのね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます