第6話

そもそも女性が階段の前にいたら、手を差し出すのが礼儀じゃないの。


付き合ってる女性に対して、どうして手を差し出さないなんていう選択肢があるのよ。


普通はしないの?


普通ってなんなの?


ぐるぐると考え込んでいれば、「お嬢様?」と仙太郎に声をかけられる。




「どうかしました?」



「…なんでもないわ」




別にいつものことよ。


私だって『普通のデート』くらいできるもの。


でも階段だったから!


階段は仕方ないの!


中に入ったらもう『普通』にするわよそれでいいんでしょ!?




「行くわよ仙太郎」



「はい」




階段を上がりきって、重ねていた手を解く。


扉を潜って館内へ入れば、すぐに正面にある大きな水槽が目に入った。


仄暗い館内では、淡く色付いた蒼い光が映える。




「何が見たいんです?」



「カワウソを見るわ!あとイルカとラッコと、それからアシカね」



「…哺乳類ばっかですね」



「あら、どれも水族館じゃないと見られないでしょう」




意気揚々と答えれば、仙太郎は私を見下ろしてふっと微かに笑う。


珍しい笑みを見た瞬間に、どうしてか胸が軋んだ。


…ヒールのせいで、いつもより顔が近いからかしら。


慣れない距離で見慣れない表情を見たせいで、変に驚いたのね。

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