第2話
「カンナちゃんを退出までさせて何の話ですか?」
「カンナに見られたくないし、聞かせたくないお話です。」
すると、彩月さんが不意に頭を下げた。
「まずは、挨拶とお礼が遅れたことを謝罪させてください。」
「そ、そんなのいらないんで頭をあげてください。」
慌ててそう言うと、ゆっくりと頭を上げてくれた。本当に感謝してくれているのだろう。ありがとうと言ってくれるのは嬉しいけど、正直反応に困る。
「だったらせめて、感謝だけでも受け取ってください。あの子に勇気を与えていただいてありがとうございます。私たちは、あの子に何もしてあげれれなかったから。貴方が居てくれて本当に良かった。」
彩月さんの声は震えていた。きっと彩月さんたちは、カンナちゃんに対して責任を感じていたのだろう。それと、自分たちの不甲斐なさを責め続けていたんだと思う。
そして、カンナちゃんを退出させたのこの為なのだと悟った。自分の愛娘にこんな話聞かせる訳にはいかない。カンナちゃんに罪悪感を抱かせる訳にはいかないからな。
「力になれたのなら良かったです。」
「感謝してもしきれないくらいです。」
「そんな、辞めて下さい。何度も言いますが、僕は少し勇気を与えただけで、頑張ったのはかんなちゃん自身ですから、いっぱい褒めてあげてください。」
どれだけ俺が、カンナちゃんに勇気を出させたからと言っても、目が見えるようになったのは結局カンナちゃんが頑張ったからに他ならない。
「それはもう沢山ご褒美をあげました。何をあげても初めて見るものばかりで、すごい、可愛い、面白いって喜んでるのが可愛くって。カンナのそんな姿を見るのが私も嬉しくて。」
「そうですね。」
「やっぱり、貴方もそう思いますよね。贔屓目に見なくても他の子と比べても頭一つ抜けて可愛いんですよ。」
「それで、婚約者の話ですが...」
彩月さんの娘愛が爆発しそうな気配を察知した。その話を聞くのも悪くは無いが、カンナちゃんをいつまでも外にいさせるのは心苦しいので、話を元に戻そうとする。
「あぁ、そうでした。その話はカンナを戻してからにしましょうか。」
彩月さんがカンナちゃんを呼び戻して、もう一度婚約者の件について話すことになった。
「婚約者の件ですが、当然断っていただいても構いません。」
「断ってもいいんですか?」
もう婚約は約束されたものだと思っていた。
「ええ、もちろんです。うちの夫が貴方のお父上と意気投合して決めたことみたいで、こんな話に巻き込んで申し訳なく思っています。」
「夫って言うと...彩月先生ですか?」
「はい。お見舞いに来られていた際に、意気投合していたようです。」
彩月先生は、俺が入院していたとか、お世話になった病院の院長だ。そんな人がまさか父さんと仲良くしていたなんて知らなかった。
「それが、どうしたら婚約なんて話になるんです?」
「夫曰く、どこの馬の骨ともわからん男にカンナはやれん!と話したら、お父上からだったら息子を婚約者にどうかと提案があったみたいです。貴方とカンナの関係は把握していまして、夫も感謝しているとして、二つ返事で了承したと聞いています。」
なるほど。要は娘大好きな彩月先生が暴走して、それを父さんは止めるどころか同調して俺を焚き付けたと言うわけだな。
とはいえ、
「すみませんがお断りさせていただきます。」
了承することはできない。倫理的にもそうだが、何より大事なのはカンナちゃんの意思だ。それを無視して婚約者となることを受け入れ、将来夫婦になったところで幸せなることはない。
なによりカンナちゃんはまだ子供だ。仮に恋心を抱いていたとしてもそれは、ただの勘違いだ。俺に感謝していることは事実だろうが、それを恋と履き違えているに過ぎない。俺よりいい人に出逢えばそれが分かる。
「私じゃ...」
「ん?どうしたの?」
カンナちゃんがなにか呟いたがよく聞こえなかった。
「私じゃ!カンナじゃダメ...ですか?」
「いや、その...」
カンナちゃんが声を張上げた。そして、上目遣いでこっちを見てくる。めちゃくちゃ可愛いけど、ここはダメだと言わなきゃいけない。
今、どれだけカンナちゃんを悲しませても、辛い思いをさせても心を鬼にして、ダメだと言わないといけない。これも全てカンナちゃん為だから。
「...ダメじゃないです。」
そう分かっていながら、なんとも情けなくか細い声でそう言ってしまった。結局俺は、カンナちゃんに屈したロリコンという訳だ。
「晴れて二人は婚約者になるということで本当によろしいんですね。」
「はい。二言はありません。」
彩月さんが念を押してくる。でも、一度受け入れた以上それを破棄するようなことはしない。
まぁ、カンナちゃんも嬉しそうにしているし、悪くはないか。
「しかし、あれでは締まりませんから、もう一度しっかり、カンナと婚約者になると伝えてください。」
えぇ、そんな無茶振りはしないでもらいたいんだが...カンナちゃん贈る言葉ね。あれしかないだろ。
「カンナちゃん。俺とこの世界の色んな景色を一緒に見に行こう。」
「はい!魁さん!よろしくお願いします!」
カンナちゃんがギュッと抱きついてきたので、慎重に抱き締め返す。女の子の体ってこんなに柔らかいのか。それになんかいい匂いがする...じゃなくてやばいやばい、これじゃまるで変態みたいじゃないか。
「娘と男のイチャイチャを見せられる母親の気持ちを答えなさい。」
すぐ横から聞こえてきた声で我に返った。
「すみません。」
「いえ、良いんですよ。全然イチャイチャしてもらって。ただ、そういうのは人目のない所でお願いします。カンナもよ。」
「うん。嬉しくてつい。」
恥ずかしそうに頬を染めるカンナちゃんも可愛い。あ、そうだ。カンナちゃんに見蕩れてる場合じゃなかった。
「婚約にあたり一つだけ条件があります。」
「なんでしょう?」
「今後、カンナちゃんが僕以外に行為を寄せる人ができたとしたら、その時は婚約を解消すること。」
「カンナが魁さん以外を好きになるなんて、そんなことありえません!」
カンナちゃんが俺を好きだって!しかも、そんなことありえないって!やばいニヤケそう。
「うん。わかってるよ。もしも、もしもだからね。」
ニヤニヤしそうになるのを何とか我慢しながら、必死に訴えてくるカンナちゃんを宥める。
「無いとは思いますが、了解しました。では、私からも一つ。彩月さんではなくお義母さんと呼んでください。敬語もなくて構いませんよ。」
お義母さん、お義母さん。なれない響きだ。それに、ちょっぴり恥ずかしい。
「うん。わかったよ。お義母さん。お義母さんも敬語で話すのは辞めてよ。魁って呼んで。」
「分かったわ。魁くん。これからよろしくね。」
「こちらこそよろしく。」
俺とお義母さんは、お互いぎこちなく握手を交わした。
婚約者の幼女と甘々同棲生活 浅木 唯 @asagi_yui
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