第一章  出会い

第2話

 桧の香りがする広い大講堂。

 大勢の者たちが、床の上に並べられた簡素な文机を前に整然と端座している。

 誰も身動きせず、声を発する者はいない。

 その多くは十代なかばの若者のようだが、まとった袍の色はじつにさまざまだ。


 ここ神聖真秀まほら皇国において、袍の色は身分や役職を表す。

 大内裏の内に位置する「修三館しゅうさんかん」の大講堂で開かれる講義は、大内裏に出入りできる者であれば年齢も身分も問わずに受講できる。

 ただし、修三館の礼儀は守らねばならない。

 難しいことではない。騒がず、争わず、師に敬意を払いそれに従う。


 定刻になると同時に、薄紫の道衣姿の老師が現われた。

 長い白髪に、白い髭をたくわえている。

 受講する者たちは一斉に頭を下げて老師を迎えた。

 老師は穏やかに受講生たちに眼を配り、語りかける。

こうべを上げられよ」


 そのとき。

 遠くで騒がしい物音がした。

 修三館の正門のあたりで何者かが騒いでいるようだ。

 受講者たちが困惑する中、上手の最前列に座していた梓丁していは無言のまま老師を見た。

 老師はその視線を受け止め、うなずき返す。

 梓丁は音もなく立ち上がり、大講堂を後にした。

 そして。


「では、本日は樹木講から始めよう」

 老師の言葉に、受講生たちは集中した。

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