講師マッチングアプリ
ちびまるフォイ
アプリ先行型の人生
「ご、合格判定……
見たことも聞いたこともない判定結果。
憧れの「桜ヶ丘大学」には到底およばないということらしい。
しかしここで諦める自分ではない。
「ここで諦めてたまるか。
これまでも好きな人に諦めずにアプローチし続けたんだ!
勉強だって同じだ!!」
なお、その結果ストーカーとして通報されてしまい
未成年で警察のお世話になるという傷を負ったが。
「ZZ判定となると、効率的に勉強しなくちゃな。
そうだ。たしか講師マッチングアプリがあったな」
広告で見知った情報をもとにアプリをインストール。
アプリに登録するとポイントが付与された。
「なるほど、アプリに講師が表示されて
マッチングすると高品質な授業を受けられるのか」
人気の講師には「いいね」が集中している。
自分も「いいね」を送ってみたが、あっという間にポイントが枯渇する。
そのうえ講師からも相互いいねが送られないと、授業開始とならない。
「くそ……全然マッチングしないじゃないか!」
絨毯爆撃のごとく「いいね」を送ってみたが、
向こうからそれが送り返されてマッチングすることはない。
結局どの講師ともマッチングできずその日を終えた。
翌日にマッチングしないことを友人に相談。
友人の答えは明瞭だった。
「え、それお前に原因あるよ」
「うそだ!」
「プロフィール入力してる?」
「もちろん」
「見せて。あーー……こりゃダメだ」
「どこが? 顔写真も学生証ものせてるぞ」
「だからだよ。逆の立場で考えてみろよ。
バカに授業を教えてたいと思うか?」
「いや……。頭いい人に教えたい。
バカに教えるのはすごくエネルギー使いそう」
「だろ。講師だって同じだよ。
ハイスペックな人とマッチングしたいに決まってる」
「じゃあどうすれば……」
「答えなんてもうわかってるだろう?」
友人に諭されて心を悪魔に売ることを決めた。
プロフィールには難関高校出身の神童だと、
メガ盛りした略歴を記載するや、マッチングしはじめた。
「こんな露骨にマッチングするとは……」
それでも人気講師の授業が受けられ、
ひいては難関大学に合格できるのであればなんだって良い。
マッチングした講師とカメラで動画をつないで授業開始。
「では授業をはじめます」
「よろしくお願いします!」
「私の授業はラップで覚えるようにしています。ヒア・ウィー・ゴー?」
「えええ……!?」
繰り出される言葉の洪水。
あっという間に自分の脳は処理限界を超えて煙をあげた。
その日のうちに講師とのマッチングは解消した。
「ぜ、ぜんぜん頭に入らなかった……。
マッチングしても授業がマッチするとは限らないんだな……」
次にマッチングした講師の授業が始まる。
「先生、よろしくお願いします」
「うむ。では授業をはじめよう。立ち上がって」
「た、立つ必要が?」
「私の授業は即興演劇を組み合わせた、全身授業。
今日はハムレットの演目で、熱エネルギーの法則を教える!」
「もっと普通に授業してくれよ!!」
次の講師も、その次の講師もクセが強すぎて無理だった。
あっという間にマッチングは解消。
普通の講師はいないものかと探してみるが、
そもそもそんな講師がマッチング授業アプリをやるはずもなく。
アクが強すぎて行き場を失った講師たちが、
今このマッチングアプリに居場所を求めて肩を寄せている。
そんな中からどんなに無作為にマッチングしたところで
やってくるのはクセ強講師ばかりだろう。
ハマれば効率はいいのだろうが……。
「もういい!!! 講師なんかに頼るか!
こうなったら自分でなんとかしてやるーー!!」
授業タイプの合わない講師のマッチング疲れ。
そんなことをする時間があれば勉強をしたほうがいい。
一番非効率なんじゃないかと思いつつも、
これ以外方法が思いつかないので古の根性論で勉強を進めた。
そして、合格発表の日。
「やれることはやった……。ああ、どうか、どうか……」
祈りながら学校前に掲示されている番号を探す。
ボードにははしっこに小さく番号が書かれていた。
「あ、あった!! うおおお! やった、やったぁぁぁ!!」
マッチングを諦めて非効率な独学勉強。
途中から合格判定なんかも気にせず努力を続けた。
その結果がついにみのった。
合格を勝ち取ることができた。
それからの日々はあっという間で、
これから始まるバラ色のキャンパスライフに思いを馳せていた。
「ついに俺も桜ヶ丘大学の学生かぁ~~」
きれいな大学。
美男美女が集う学園。
活発な部活に、多数のサークル。
桜舞う大学の入口を通って、最初の教室に入った。
「これから思いっきり大学生活を楽しむぞーー!」
気合十分で待っていると、教室に先生がやってきた。
先生の手元にはスマホがある。
「みなさん、合格おめでとうございます。
さっそくですが自分の端末にうちの学校のアプリを入れてください」
「そんなのあるんだ」
指定されたQRコードを読み取りアプリをインストール。
アプリを開くと、プロフィール入力画面が開いた。
「こ、この画面は……」
その見慣れた画面に背筋が寒くなる。
先生は説明を続けた。
「みなさんが入れたのは大学生活マッチングアプリ。
授業、友達、部活、恋愛など、すべてを管理しています。
マッチングもしていないのに、勝手に授業受けたり
いきなり話しかけて友達にならないようにしてください」
大学生活が始まった。
あれから3年たつが、いまだにマッチングはできていない……。
講師マッチングアプリ ちびまるフォイ @firestorage
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