ようせい、輝かず

白川津 中々

◾️

「じゃ、明日は実際に妖精を作ってもらうので、どんな子にしたいか考えといてくださいねー」


授業終了。頭を悩ませながら帰り支度。

誰もが一度は経験する妖精作り。誰もが皆、悩む課題。あるあるである。ピクシータイプになんてしようものなら周りから異常性欲者扱いされるだろうし、かといってゴブリンやドワーフなんかはつまらん。ドラゴン、ナーガあたりのかっこいい系は好きだけれども他の奴と被りそうだから、できれば別のモチーフがいい。こういう細かなチョイスで光るセンス。裁縫ボックスで安易に暗黒龍を選択するようなつまらない男に、俺はなりたくはないのだ。


「とはいえなぁ」


思わず漏れる独り言。多くのアイディアやネタが擦り続けられる昨今において完全オリジナルは中々どうして難しい。基本的には誰かが一度通った道を辿るのがベースとしてあり、そこから新たなルートを開幕するのが定石である。なので源流……方向性を決めてしまいたいところだが、残念なことに、こうした課題に役立つ趣味や知識が俺にはない。せいぜい犬猫モチーフで犬種猫種を選ぶくらいか。妖精ポメラニアン、妖精マンチカン、いかん、面白くない。それに妖精は喋るのだ。発声の関係上唇があった方がやはり自然。となると、人型。これは決定。次はモチーフだが……アニメ。アニメキャラクターなど割とありそうでなさそうだなと閃く。とくに古い作品であれば更に競合は減るだろう。という事で、動画サイトに違法アップロードされているものを観てリサーチ。検索欄にオールドアニメと入力。順に観ていくが、どうもしっくりくるものがなく帰り道を歩きながらスワイプを断続。いやぁセル画っていうのかなぁ。どうにも慣れないなぁ。やっぱり綺麗なCGが一番だなぁと指を動かし続けていたところ、止まる。


これだ。


直感的にそう信じた俺は急ぎ帰宅し、課題制作の準備に取り掛かった。


翌日。


「はい、それじゃあ妖精作っていきましょうねー」


昨日に引き続き、家庭科の時間。妖精作り開始。

必要な材料は木の葉に綺麗な水。にんじん玉ねぎじゃがいも。今回は豚肉を用意したが肉ならなんでもオッケー。これを煮詰めて妖精のルーを入れれば……できた! 妖精の完成だ!


「あ、早いね原君。この妖精は何かな」


「はい、これは……」


俺が答えるまもなく、妖精が口を開く。


「俺の持つ星は最も美しく輝く星、妖星! 人は裏切りの星と呼ぶがそうではない! 妖星は天をも動かす美と知略の星なのだ!」


「……なにこれ」


「はい。南斗六聖拳が一人。妖星のユダです」


「俺はこの世で誰よりも強く……そして美しい!」


昨日見かけた北斗の拳。妖星と妖精がかかってひと笑いたるなと思い即断。でや、おもろいやろ。


「うーん……少し趣味が悪いかなぁ……手のバックルにUDって書いてあるけど、ユダの頭文字はJだし、ちょっと色々と……」


「あ、駄目でしたかね」


「駄目じゃないけど、センスはちょっとよく分からないかなぁ」


「そっすかー」


めちゃくちゃウケると思っていただけに、この評価は悔しかった。


「どうだぁ!? 己の想いが空回りに終わった味はぁ!?」


「……」


腹が立ったため、羽を毟った。


「バ、バカな……」


吐血しているがダメージはないはずである。神経だって繋がってないんだから。そう、これは原作のワンシーン。レイとの勝負が決着したシーンを再現しているのだ。つまり、この後は……


「だが、俺はこんな死に方はせん……せめて……その胸の中で……」


……死んだ。妖星、輝かず。

ちょっと、原作に寄せすぎちゃったなと反省。課題は真面目にやらないといけないなと思った。

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