第12話
それからまた、ひと月ほどが経った頃だった。
「ミレイユ、おはよ……う? あれ、またいない」
このところ、ミレイユは早朝にひとり出掛けて行くことが多くなっていた。どうやら、わたしに内緒で何かしている様子なのだ。
「仕方ない。よし、二度寝しよう」
いったん起きたけど、ミレイユがいないんじゃ特にすることもないし、わたしは再び寝床に戻る。
ちょっと前までは、ミレイユが特訓をしようというから、朝早くから起きて活動開始することが多かったけれど、最近はどういうわけか、朝どこかへ行ってしまっていることが多い。暇を持て余したわたしは、ついつい二度寝してしまうようになっていた。
寝床の中でうつらうつらしていると、外でトン、と音がした。きっとミレイユだ。箒で飛んでどこかから帰ってきて、今降り立ったのだろう。
しばらくすると、小屋のドアを開けて、ミレイユが中に入ってきた。
特に意味はないけれど、わたしは寝たふりをする。
「これ」
「ひゃあっ」
ミレイユは寝ているわたしのおでこに、箒の柄の先をトン、と当ててくる。
「ちょっ、いきなり、なにするの!?」
「この寝坊助め。もう朝だぞ」
別に寝坊したわけじゃないもん。ミレイユがいないから二度寝したんだもん、と心の中で思ったけれど、口にはしなかった。ミレイユが朝何かをしているってことは、なんとなく知らないふりをしていたほうがいいような気がして。
「瑠衣、今日は街に行ってみないか」
「え、いいの!?」
「毎日ここにいるのも、そろそろ飽きてきただろ。……それに、街には色々とあるからな」
「やったー!」
嬉しくなって、わたしはすぐに飛び起きた。前にも街に行ってみたいと頼んだことがあったけど、そのときはかなり嫌そうにされたから、てっきりミレイユは人の多くいるような所が嫌いなのかと思って諦めてしまっていたんだけど。
街に行けばいろんな人たちがいるだろうし、この世界で他の人たちがどんなふうに暮らしているのか、見てみたかった。
「じゃあ早速、向かうか」
そう言うとミレイユは、いつもとは違う服装に着替えて歩き出す。
「あれ、いつもみたいに箒に乗らないの?」
「馬鹿者。箒で飛んで行ったら魔女だとバレてしまうだろう。歩くぞ」
「ええ~」
街まで、結構距離がありそうな気がするんだけど。
「心配するな。疲れたら背負ってやるから」
「……そのちっちゃい身体で?」
「おい、殺すぞ」
相変わらず、ミレイユの体型コンプレックスは続いているようだった。
そんなこんなで、わたしたちは街にたどり着いた。
「はあ……やっと着いた」
「さすがに疲れたな。飯にでもするか」
「うん。もう、おなかペコペコだよー」
だけど、ちょっと気になることがある。
「ミレイユ、お金とか、持ってるの?」
「任せろ」
ミレイユは自信満々にそう言って、近くのお店に入って行く。のだけど。
「お嬢ちゃん、ダメだよ、それじゃ、売れないよ」
そう言われて、追い返されてしまった。
「……しかし、どうしてそんな古いお金を持ってるんだ?」
そう、店主がぼそっと言うのを聞いて、ミレイユはようやく思い至ったようだった。
「しまった、そうか……」
ミレイユはため息をついた。
「どうしたの?」
「時代が、変わったということさ」
硬貨を握りしめたまま、寂しそうに言うミレイユ。つまりは、こういうことだ。
ミレイユが持っていたお金は、ミレイユが封印される前の、ずいぶん昔のお金で。現在のこの街の通貨としては使えないものになってしまっているらしかった。
「どうしたものか。こうなったら、あいつを殴って奪うか」
「暴力はダメだよ!」
「……瑠衣がそう言うんじゃ、仕方ないな。じゃあ、その代わり……」
ミレイユはニヤリと笑う。何かを企んでいるみたいに。
「お前に、稼いでもらうしかないな」
そう言って、楽しそうに笑うのだった。
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