第2話

部屋に射し込む光を受けて埃がキラキラと舞う静かな時間


俺は微睡みの中に居た。


この時間が一番好きだ。


八神やがみ ひろむ


親元を離れて関東のある高校に通う17歳。

16になる春、馴染みある土地を離れてここへ来た。


親孝行なんてしたことないけど

つましく生きる素朴な父母には平穏な老後を送って欲しいと願っている。

異端な俺が居ては無理だ。


両親は…いくつだっけ?

いちいち親の年齢まで記憶していないけど

俺くらいの息子が居るにしてはやや年老いていた。


一回り程年の離れた姉が一人。

高校卒業と共に就学で家を離れ

今では就職して自立している。


もう何年も会っていないから何を話していいのかちょっとわからない。



その姉、美寿々みすずも結婚するらしく

そうなれば俺も顔を出すわけだけれど。


 ――実家か。


高校に入ってから一度も実家には帰っていない。

入学当初は断っても心配して母親が何度か来ていたけれど


学校の職員でもある柏原さんが説得して安心したのかあまり来なくなった。


電話は相変わらず週に一回掛かって来る程度。


「泊まりとなると…夜が面倒だな。轟木とどろきのとこでつるむか。」


うとうとしながら考えていると

思わず寝言のように口に出ていた。


夜行性は今に始まったわけではないから夜に地元のツレと遊んでいてもきっと親は何とも思わないだろう。


特別素行は悪くもないが

物心ついた時から夜に目が冴え、逆に昼はぼーっとしていた。


特別精神が落ち込む訳でもなく

病院で調べてもどうやら生まれつきのものらしい。


その習性を親が心配して一時期全寮制の施設に入っていたことがある。


忘れっぽくて物覚えは良い方じゃないからその辺の内容、俺自身あやふやだけど。


まあ、その施設の縁で知り合った当時の担当医、

柏原かしわらさんの支援があったからこの高校に入れた訳だ。


 夜の俺を身内には見せるわけにはいかない。



俺が地元を離れ、東京の端っこの学生寮に住むようになって

変わった事がいくつかある。


ひとつは体質だ。


昼間ぼーっとしていて眠気が襲うのは何も変わらないけど


夜は――


日が落ちれば一変する。


俺は俺であって俺ではなくなる。

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