「冒険者パーティーが悪い魔物を倒す話」
結晶蜘蛛
「冒険者パーティーが悪い魔物を倒す話」
幼いころからあたしは力が強かった。
水がいっぱい入った樽を軽々と持ち上げたし、猪にはねられてもケロッとしていた。
風邪ひいて倒れてるときに、庭の木を抜いてくれと言われて引き抜いたこともある……いま考えるとひどい話だがな。
田舎の例にもれずにあたしの家も大家族だ。
当然、家の中のものはみんなで使いまわしてる状況だ。
だから、この力を使って金を稼いで楽させてやろうと思って、冒険者になり街へ行くことにした。
†
冒険者になってすでに8年が過ぎ、等級も上から4番目まで上り詰めた。
あたしのパーティーは4人。
森に棲んでた大剣使い。
師弟料を払うために冒険者をしている魔法使い。
ひねくれ者の斥候をしている気障男。
そして、リーダーのあたしだ。
今回は奈落種の討伐に洞窟に訪れていた。
「Grrrrr……!」
「あら、嫌だ。あなた魔物ではなくて?」
「うちの可愛いどころにナマ言ってんじゃねぇぞ!」
「怖いわ、うふふ」
蜘蛛の下半身。
黄色と黒の体色をしたそれの上に女性の身体がついている。
色街に居そうな容姿をしているが、目が複眼になっているから見目が整ってるのが逆に不気味だった。
8本の腕から糸を飛ばしてこちらをからめとろうとしてくる。
剣士の振るう身の丈より巨大な大剣をかいくぐり、避けたすきを狙った斥候の弩弓の一撃をあっさりとつかみ取った。
「これならどうかしら?」
奈落種の女は腰につけた小剣を引き抜き、斥候へ投げつける。
斥候の横から魔法使いがあらわれ矢避の呪文で小剣をそらす。
洞窟内にいたほかの魔物が二人に近づいてきたため、あたしはそちらへの迎撃に向かった。
「」
「Grrrr……!」
「少しうっとうしいわね」
大剣士の攻撃を半歩弾いて避けた奈落種の女はそのまま、4本の剣で連撃を繰り出してくる。
金属音が響き、大剣士はうなり声をあげながら弾いていくが押されていく。
うなり声をあげたカマキリの魔物の首をあたしは引きちぎり、大剣士へと駆け出した。
「これで終わりよ」
「G……っ!」
「やらせるかぁ!」
壁まで押された大剣士にとどめを刺そうとした奈落種の女。
その剣劇の間に身を滑り込ませた。
剣があたしに食い込むが――そんなもの利きはしない。
奈落種の女が面白そうな声をあげる。
あたしは首に剣を受けつつ、奈落種の女の腹に拳を叩き込んだ。
「……ごほっ、……えらく頑丈じゃない」
「それがあたしの取り柄だ」
一人よりも魔力強化の力が強い。
それがあたしの強みだ。
魔力を扱えるものなら基本的な能力だが、あたしはその力が人一倍強いのだ。
そのせいで鎧や剣を握りつぶしてしまいまともに扱えないが、だから、軽装のまま素手で戦っている。
「でもね……もう終わりよ」
腹を抑え、口から血をこぼした奈落種の女が腕を振り上げ――そしておろした。
瞬間、浮遊感を感じ、全員が宙から浮かび上がる。
暗い中、松明の光でわずかに光るものが見えた。
糸だ。
蜘蛛の糸が張り巡らされている。
「眷属の蜘蛛たちに密かに糸を張り巡らせたの。あなたたちは私の巣の上で戦っていたようなものよ」
奈落種の女が笑う。
「あなたたちはどう料理してあげようかしら。
この前の子たちのように生きたまま蜘蛛の卵を植え付けてあげてもいいけど……、それだけじゃ芸がないわね」
奈落種の女は頬に手をあて考えている。
周囲を見ると、数人のつるされた人間の死骸があった。
いくつかの死体には小さく黒い蜘蛛が群がっている。
――奈落種。
魔物の一種だ。
魔物というのは魔力を扱う生物たちの総称だが、その中でも奈落種は負の魔力が凝り固まった存在だ。
会話はできるし高度な頭もある。だが、やつらはそれらを他者……特に人に対して害することしか使わない話が通じない存在。
この奈落種の女が発見されたのも、最初は近隣の村から失踪者が出たからだ。
「そうね、あなたはどろどろに溶してからすすってあげるわ」
「Grrr――!」
「リーダー、魔法使いが窒息しかけてる、どうにかできないか!」
「ぐぬ……うおおおおおおお!」
「無駄よ、あたしの糸はドラゴンすらもつなぎとめるわ」
奈落種の女が糸を引っ張り、さらに締め付けが強くなる。
あたしはもがいて、糸を引っ張った。
しかし、糸は肌に食い込みはするものの全く千切れる気配はない。
だが、糸自体はつながってるようで、わずかにほかの面子の体が浮いた。
どうやらあたしの力の方が奈落種の女より勝っているようだ。
奈落種の女が眉をひそめた。
魔法使いが「ぷはっ」と声が出す。
口をふさぐ糸が緩んだようだ。
「息吹き返したところ悪いが、重量魔法をくれ!」
「え、たぶん避けられるよ?」
「違う、あたしにだ!」
「こんな糸に巻き付けられてる状況でやったら体がちぎれ跳んじゃうわ!」
「いいから!」
「わ……、わかったわ!」
魔法使いが呪文を唱えると、一気に糸が下に引っ張られ、あたしだけが地面へと落ちる。
「全身に食い込むな……だが、ちょうどいい」
腕に指に首に股に、糸が食い込んでくる。
ぎちぎちとした圧迫感にしめつけられる。
しかし、魔力強化したあたしの身体は糸の圧力にちぎれとばなかった。
全身が痛い。血が逃げ場を求めて集められ、しびれすら感じる。
だが、このぎちぎちとした感触が気持ちいい。
生きてるって感じがして、テンションが上がってきた。
「んじゃ、まぁ、我慢比べと行こうぜ! どっちが最後までたってるか勝負だ!」
あたしは糸にまきつかれたまま、力まかせに進んでいく。
一歩進むごとに食い込みがきつくなるが、むしろテンションが上がるぐらいだ。
「あなた……滋養がありそうね」
奈落種の女も糸を切り離せないみたいで、腕のうち4本ほどが宙に吊り上げられている。
だが、歩いていくあたしを見て笑った。
いいぜ、最後までたっていた方が勝者だ。
さぁ、やろうか!
「冒険者パーティーが悪い魔物を倒す話」 結晶蜘蛛 @crystal000
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