眠り姫は夢可愛い

ちは

第1話 眠り姫

 私のクラスには眠り姫と呼ばれるとても可愛い女の子がいます。彼女の名前は枕木夢香まくらぎゆめか。背中まで伸びた絹のような白髪の髪、お人形さんのような可愛らしい顔、アニメから出てきたのかと思ってしまうほどに透き通った綺麗な声、そしてモデルさんかと疑ってしまう程の綺麗なスタイル。


「はぁ……今日も夢香ゆめかちゃんは可愛いな~……」


「相変わらずひなたは眠り姫のこと好きね」


「だってあんなに可愛いんだよ?むしろ好きにならない方が失礼だと思わない!?」


「はいはい興奮しないでね~」


 いつもの発作かと言わんばかりに私のことを宥める山吹色の髪をした友人、由良ゆらに対して私はじとりとした視線を向ける。


「おぉ怖い怖い、眠り姫過激派に襲われちゃう~」


「過激派じゃない、私は後方腕組見守りおじさんだからそこの所間違えないで」


「あんたまだ女子高校生でしょ……」


 私は春日部かすかべひなた。可愛いものと甘い物が大好きなどこにでもいそうな女子高校生だ。勉強も運動も容姿も凡々。枕木さんのような長くて白い髪とは対極にある少し短めの真っ黒な髪を持つ、悪いわけではないのだが良い訳ではないTHE中間層の女の子。自分で言うのもあれだが私以上に普通な女の子はほとんどいないだろう。えっへん。


「まぁ犯罪だけはしないようにね~?」


「由良は私のことを何だと思ってるのさ」


「可愛いものが大好きな可愛い可愛い私の友達」


「……何が目的?」


「えぇ~?私はただ友達のことを褒めただけなんだけど~?まぁ強いて言うなら国語のノートを見せて欲しいかな~なんて」


「はぁ……はいこれ」


 私は白々しい演技をする由良に自分のノートを手渡す。由良が私のことを大袈裟に褒める時は大体何かしらの頼み事があるときだ。長い事友達をしていれば分かる。


「ありがとひなた~好き~」


「はいはいぶりっ子しなくて良いから早く写してね~」


「ねぇちょっと?私の扱いひどくない?」


 私は親友から視線を外し、一人の少女───枕木夢香へと視線を向ける。


 あぁ……寝顔超かわいい…!!


 眠り姫。どうしてそう呼ばれているのか、それは彼女がほぼ一日中寝ているからである。休み時間はもちろん授業中も寝ている。起きている時間の方が少ないと言いきれるほどに彼女は一日中寝ているのだ。


 そんなずっと眠りこけていて先生に怒られないのかという疑問が頭に浮かぶと思うけれど、彼女はとても頭が良く、授業中寝ていても何故か学年1位を取ってしまう。先生方も彼女に何も言えなくなり黙認されるようになったのだ。枕を机に置いて寝るのが許されるのは枕木さんだけだろう。


 出来れば間近で見たいけれど……流石に周りの人から変態だとは思われたくない。……でも遠くから見るだけでも十分私の心が癒されるからいっか。


「ひなたさーん?もう少し顔を引き締めた方が良いですよー」


「はっ!?いけない、飲み込まれるところだった」


「……もう飲み込まれてたけどね?」





 お、おぎゃああああああああああああああああ!!!!!!??????


 声にならない叫びが私の体の中を駆け回る。今すぐにでもこの体の中を支配する衝動を発散させたいが、私は深呼吸を繰り返すことでこの衝動を何とか抑えようと試みる。何故私がこんな元気な赤ちゃんのような声をあげたのか(あげてない)、時は少し遡る。


「伝えないといけないのはこれで終わりかな?はいじゃあ今日は席替えをしまーす。適当にくじ作ったから引いてってー」


 HRの時間になり、先生の連絡が終わると緩く席替えが始まった。学級委員長が仕切り、名簿順にくじを引くことになったのだが……。


「ひなたは何番だったー?」


「私は24番だったよ」


「窓側から一個隣の席か~」


「由良は?」


「私は9番。めっちゃ遠くなっちゃって私悲しい、しくしく」


「また思っても無い事を……」


「思ってるって~」


 私が由良と話していると先生がくじの入った箱を覗き込み、残った1枚の紙をぴらりとめくる。


「枕木は相変わらず寝てるので代わりに引いときます。ほい、それじゃあ各自良い感じに席替えして~」


 そうして席替えが行われたのだが……。


「おーい枕木ー。起きて席の移動してくれー」


「んんぅ……次のベッドはどこですか?」


「ベッドって……枕木は─────春日部の隣だ」


「へ?」


 時間が止まる。私の思考が、呼吸が、身体が動かなくなる。そうして固まってる間に枕を抱えた白髪の美少女が私の隣へとやって来てそのまま再び眠りにつく。


「はい、当分はこの席でやってくのでよろしく~。じゃあ終わりますか」


 ……おぎゃああああああああああああああああ!!!!!!??????


 そう、私の隣にあの眠り姫がやって来たのでした。


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