第9話
「じゃあ、不審者は愚かこの学校に新しく入ってきた生徒も教師も用務員もいないのだね」
校長室で理事長の娘、茅原皐月と僕、祓の3人で話しあっていた。
大人はいない。祓がいうには、
「大人には大人が大人のやり方で聞き込みをすればいい。子供社会からしか見えないものがある」
とのことだった。
「音楽室で突然『魔王』が流れだしたピアノ。チャイムの3回目にトイレの窓を見ると写る茶髪で顔の無い女子高生。朝に理科室に行くと蛙の解剖の死体があった。エトセトラエトセトラ……はっ、七不思議どころか百不思議だな」
「この学校の生徒のほとんどが心霊現象にあってるんです。ただの噂も中にはあるでしょうが、私も顔の無い女子高生は見ました。そしてついに授業中に羽音の様な音が聞こえて、頭がキーンと熱暴走を起こしたようになって……我を忘れてしまいました」
「羽音?虫の羽音かい?」
「いえ、大勢の、鳥?に近いものだったと思います。ただ、鳥にしてはなんだか、不気味な響きで」
「鳥……」
「この学校の生徒や教師の中で、急に様子が変わった人はいなかった?」
「先生方も心霊現象にはあっていますが、それ以前も、それ以後も、気丈にきちんとお仕事されています。強いて言えば、この学校には占いの……サークル?部活では無いのですが、占い好きの方達の繋がりがあって、その方達はこういう心霊現象を面白がっているようです。私はそういった方々とは全く関わりが無いので、又聞きですが」
「その占いサークルがこのオカルト事件を引き起こしてるってのは無いかな?」
「はっははははは!いい冗談だな空!こんなお嬢様学校の女子高生が?学校全体を汚染するオカルト現象を引き起こす術式を?ありえん。これだけの霊力と魔力だぞ。幼い頃から邪教に生き神にされる為に育てられた奴でもいない限り、そんな芸当は不可能だ。全校生徒と学校関係者の身元は洗ったが、みんなオカルトとは無縁の、綺麗な経歴だったぞ。ちょっとやそっとインターネットで知った魔術を齧った程度でこの心霊汚染はありえない」
「それで……友達をご紹介するということでしたが……すいません。私の友達は皆さん怯えてしまって家に引きこもってしまっているんです」
「そうか。お前は生徒として何か変わった噂があるかそれとなく調べて報告しろ。空。ちょっと校内を歩くぞ」
僕は飲みかけだった紅茶を急いで飲み干し、祓を追いかけながら頭を下げる。
「ありがとうございました」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
校内を歩くと、やはり男子生徒が珍しいのかチラチラ見られている。
「羅生式5番、『祓鼬』。速やかに実行せよ。」
形代刃物が放つ霊力と同じ、除霊の清らかな霊力が斬撃となって祓の周囲を無数に舞う。それらは生徒や教師達は透過し、魔力に寄ってきた悪霊や穢れから生まれた穢物だけを切り裂いていく。
「その場しのぎだがな。便所を掃除するような物だ。すぐにまた悪いモノたちがやってくる」
「ねえねえ!君、どこの学校?」
振り向くと、薄く化粧をしたこの学校の女子生徒が僕を見ていた。
「僕?鷹羽」
「共学じゃーん!いいなあ!ねえねえ!なんで聖和に来てるの?」
「生徒会合同で話しあわなきゃいけない問題があってね」
「問題?ああ『名前を言ってはいけないあの子』の呪いでしょ?」
「なに?そのヴォルデモートみたいな人。この学校の心霊現象?」
「違う違う。その心霊現象の元凶だよ。」
「え?」
「ヤバイんだよその子。変な文字を黒板にみっちり書いて誰かを呪ったり、変な石を集めて魔法陣の上に乗せて悪魔を生徒に憑依させようとしたり」
「ああ、占いサークルね」
「占いサークル?そんなもんじゃないって!あれは黒魔術結社だよ。信者みたいな子が大勢いてさ、教祖みたいになってるの。本当にイカれてるよ。私何人もリストカットしてる『信者』の子見たよ。聞いたら『儀式で使う』とか『飲んでいただく』って。血を飲むんだよ?問題になって、今では服で隠れるところから血を採ってるみたい。『聖和の吸血鬼』って、裏サイトでも話題で持ちきりでさ」
「その子はどんな子なの?」
「おい空、時間の無駄だ。行くぞ」
「なんかの手がかりになるかもしれないでしょ。どんな子?」
「あのねー最初はくら〜い、占い好きとも距離置いてる、地味目な子だったの。それがある日突然、『悪魔様に見初められた』って言い出して、占いを始めたの。その占い、結果はポエムの形式で出るからどうとでも取れるんだけど、当たるって評判になったの。それ以外にも『悪魔様に教えてもらった』って斬新で面白い占いやおまじないを沢山知ってて、あっという間に教祖みたいになったんだ」
「その子の名前は?」
「言えないの。信者以外の子が名前を言うだけで呪われるんだって」
「そんな大規模な探索術式があれば苦労はしない。もういいだろう、空。行くぞ」
僕らは悪霊達を祓いながら学校をあとにした。
「男子を連れてきても、聞けたのは与太話か、役立たずめ」
「ねえ、やっぱりその教祖って子が関係してるんじゃないかと思うんだけど」
「だからありえないと言ったろう。今、学校中に満ちている魔力と霊力を微量ずつ集めた。家で千里眼を使ってみる」
「放課後なら、聖和には入っていいんだよね?」
「ああ」
「僕、ちょっとその黒魔術結社について調べてもいい?」
「多感な少女のごっこ遊びが行き過ぎてるだけだと思うがな……まあ、ついでに悪霊達を祓うっていうならこっちの手間が省けるな」
「祓うよ。祓う」
「じゃあコレを持っていけ」
一枚の御札を取り出した。
「なにこれ」
「術式札だ。霊力を流すだけで『人隠し』が使える。人前で刃物を振り回すわけにもいかないだろう」
「じゃあ、調べるね」
「無駄だとおもうがね」
祓は肩をすくめる。徹底的に黒魔術結社はエセオカルトだと決めつけているようだった。
僕はまだそこら辺の感覚がわからないが、恐らく普通に考えればオカルトマニアが起こせるレベルを遥かに逸脱したことが起きていたのだろう。
普通に考えれば。
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