第8話

 いまや、愛は全て徒夢と化したのだろう。

 誰もが自分にとっての特別を求め、誰かにとっての特別を求め、それらはインスタントに市場で数字として計られる。

 愛してるならいいねお願いします。

 この先の愛は有料となっております。

 皆さんの愛で立派なタワマンに住めるようになりました。

 ああ、そのスペックだと大体このくらいがあなたの「特別」となります。

 とりあえず画面に出てくる全員をスワイプで「愛」するか。

 ああ、この「愛」は返信しなくていいかな。

 通貨と成り果てた愛。

 胸にぽっかり空いた「本物」を求める穴。その穴にいつだって人類が縋ってきた「それ」に群がることは、だから至極当然の帰結だったのだと思う。

 校舎に集まる思春期の少女達。

 揺らぐ影のように不安定で、脆くて、グロテスク。

 秘密の共有。

 仲間意識。

 未来への不安。

 それらは、魔術といとも容易く結びついてしまうのだ。

 あるいは、この場合宗教と呼んだ方がいいのかもしれない。

 深淵の奥の奥。化け物と恋仲になるほど見つめあったあの少女に対しては。


 佐原走太が快方に向かっており、あと一ヶ月ほどで学校に来れるというニュースが耳に入り、安堵していたところに、祓が僕を式神として使役してきた。

「空、仕事だ」

「は?」

「聖和光学園で怪奇現象多発。ついに集団ヒステリーが起きた」

「ガセネタじゃないの?」

「布都の人間が下見に行ったところ、霊力と魔力が混在して充満していた」

「魔力?」

「外法を使う際に使う霊力を変換したエネルギーだ。つまり、死者の仕業ではなく、生きた人間の仕業。思春期の少女の集団など、邪教にとっては垂涎の的だ。手が出しにくいだけでな。どうやったのか、ついに少女を儀式の材料にし始めているのだろう。我々は同年代の高校生として聖和光学園の生徒のコミュニティに潜入する」

「どうやって」

「理事長とうちの親父が知り合いで、娘が今聖和光学園に通学している。そいつから芋づる式に学園のコミュニティに潜り込む」

「あそこ、女子校だよね?祓だけで行った方がいいんじゃない?」

「お前は私がオカルトに絡むときは問答無用でついてくるのだ。それに空は顔が整っているからな」

「ああ、それで?」

 自分の顔が整っているというのは、周りから何度も言われているのでそう言われても別に反応には困らない。

「男に飢えた女子校の奴等にイケメンはいい餌になる」

 男子校の奴等が女子に飢えてるっていうのは聞いたことがあるけれど、女子校の子たちが男子に飢えてるってほんとかなぁ?


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