光、踊る場所へ

池平コショウ

第1話

 監督の千佳子先生がまた怒鳴っている。

「春江! 仲間を信じて走るの!」

 高校に入ってコンビを組まされた理恵とは二年たった今でも息があ合わない。出身中学が違ううえ、彼女は地域選抜にも選ばれるエリート。こっちはちょっと足が速いだけの無名のフォワード。校内でも話したことはない。彼女にとって私は話す価値すらないらしい。

 千佳子は、相手守備の手薄なスペースを見つけて走り込めと言うが、いくら走っても理恵からのパスは反対側に出る。走らずに足下にパスをもらうしかなかった。

 準決勝はなんとか勝ち抜いた。しかし決勝の相手は強豪。弱点は見透かされているはずだ。

 試合前のミーティングで千佳子が伝説を教えてくれた。

「パスの出し手と受け手のイメージがピッタリと合わさったとき、スペースが光るって見えるんだって。ここだよ! って教えるみたいに」

「んなバカな!」

 私の声は理恵とピタリと重なった。

「ねっ」我が意を得たりとばかりに千佳子が続ける。

「時間はかかったけど春江と理恵は良いコンビよ。春江は理恵のパスセンスをリスペクトしているし、理恵は春江の足の速さを認めている」

 そう言って小さな透明ケースを取り出した。

「今日は、あなたたちに妖精の粉を授けます。代々受け継がれてきた秘伝の粉よ」

 金色の粉をつまむと全員の頭上からパラパラと振りかけた。

「妖精の粉は信じる心を呼び覚ましてくれるの。信じる心で人は空を飛べるようにもなるのよ」

 試合は両チームとも無得点のまま残り五分まで進んでいた。まだスペースは一度も光っていなかった。いつもの私なら「な~んだ。やっぱりガセネタじゃん」と思うところだが、その日は伝説を信じていた。「必ず。きっと」

 強烈なシュートを味方キーパーがギリギリでキャッチしてロングキック。ボールを受けた理恵が前を見た。視線の先を私も探る。日だまりが踊りながら「ここ! ここ!」と呼んでいた。

 走り込んだ私は日だまりを回り込みながら水平に飛んだ。心地のいい衝撃が額に伝わる。顔を上げるとボールはゴールの中にあった。

 勝利にはしゃぐ私たちに向かって千佳子がネタばらしをした。

「妖精の粉って言ったけど本当は百円ショップで買ったネイル用のラメなのよ」

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