第20話 彼の手掛かりに動きあり

 2025年6月19日。お昼過ぎ。


 ホニャイヤダ臨時拠点にて。


「ゼコウ!幸太の情報が入ったって本当!?」


 フミネはゼコウに問いかける。


「あぁ、現在彼らは2025年6月17日の昼過ぎにT市の外れにある岩居橋の下にてモパンに保護された可能性がある。そして彼らの船と思われる物が翌日6月18日未明にハワイ周辺の海上で確認された……」


「え……。ちょっと待って、その時間ってハワイ上空で謎の爆発があった時じゃない……まさか!?」


「落ち着けフミネ……。現状では爆発時に確認された船がモパンの物であるという根拠も、幸太達が彼らと一緒だと言う証拠もない……」


「でも、もし……。もし彼らが爆発に巻き込まれていた場合……」


「フミネ。だから俺たちは今出来ることをやっていくしかないんだ。今何が起きているのかを調べる。それだけが彼らを知る手掛かりなんだ!」


「!?……ごめんなさい。まだ彼らがどうなっているかはわからないわよね。それを調べることで助けることも出来るものね」


「そうだ……。辛いが頑張るしかないんだ」


「えぇ、為すべきことをやりましょう……。私は信じるわ!」


「あぁ……」



 そしてホニャイヤダ臨時拠点で会議が始まる。


「では、福永幸太及び橘陽翔が何者から襲撃を受けているのか改めて報告を頼む」


「はい!第4隊隊長、ヤゴロです!先日福永幸太の自宅に押し寄せその後襲撃をした集団は新興宗教団体「救世主教会」の信者で間違いありません」


「それはどんな組織なんだ?」


「救世主教会教祖は山門ムツミ。救世主教会の教義は以下の内容です。①世界はサタンによって滅亡を迎える。②その滅亡から全てを救う救世主、メシアがいる。③メシアは名を「ハルト様」と言い、滅亡間近、現世に顕現される。④ハルト様は奇跡の力を持って、滅亡から全てを救われる。以上です」


「なるほど、よくある終末思想の宗教か……。幸太のニュースに対する行動はどのようなものがあった?」


「はい!世界で福永幸太の報道がなされた時、教祖より全信者に福永幸太こそ世界を滅亡に導くサタンであり、サタンを捕まえた者にはメシアより加護と恩恵を与えられるとの声明が送られました。この組織は世界規模で信者数が非常に多く、それぞれで捜索網を形成し福永幸太の自宅を特定。襲撃に至ったと考えられます」


「そうか、あまりにもニュースと教義の内容が似通っているな……。世界滅亡とその原因のサタン、それと世界の異常気象の原因の幸太、さらに救世主のハルト様と幸太の友人である陽翔……なぜだ……」


「それについては私から説明するわ。あの報道の声明を発表した世界政府のリチャード・ゴードン事務総長はこの救世主教会教祖の山門やまとムツミと深い繋がりがある事が潜入調査で判明したわ」


「なに?」


「リチャード・ゴードンは約3年前、世界政府の下部組織WGSD-USで山門やまとムツミの夫である山門やまとジャックと同僚だったの。その後、親交を重ねたリチャードは救世主教会のバックアップと彼自身の類い稀な才能によって約3年と言う短期間で世界のトップである世界政府の事務総長になったの。それからはお互いに支援をしていき持ちつ持たれつつの関係になったと言う訳よ」


「では今回の世界政府の行動には救世主教会の関与が考えられる訳だな。しかしなぜ彼らは国際指名手配をしたにも関わらず警察ではなく信者を使って行動を起こしているのだ?現在警察は通報などを受け付けるだけで捜査などはしていない理由はなぜだ?」


「それは日本政府が世界政府から抜けている事が原因ね。現在日本政府は世界政府から脱退している影響でICPOとの連携協力が滞っている状態なの。彼らとしてはICPO及び日本警察を使いたかったのでしょうけど、世界政府脱退時に救世主教会関係者を全て排除をしたため教会からの圧力にも対応しなかったようね。しかしそれも時間の問題ね。6月18日ごろより世界政府の役員が日本政府と交渉を始めているわ。まもなく日本政府も再び世界政府に加入するかもしれないわね」


「つまり、これまで以上に幸太を巡る情勢が激化するわけだな」


「それだけじゃないわ、私達ホニャイヤダもこれから彼らの敵として逮捕される可能性があるわ。私たちは国際指名手配の犯人の組織とされているから」


「まずいな……。しかしそこまでして幸太達を確保する目的は何なのだ?」


「それは、おそらく幸太の力が目的よ……」


「力だと?以前報告でも話していたがそれは一体?」


「ゼコウ、宗教でなぜ人々は祈るか知ってる?」


「何をいきなり聞いているんだ?」


「答えて」


 フミネは真剣な顔でゼコウに問いかけた。


「……神様に祈って助けてもらったり、願いを叶えてもらうためとかか?」


「そうよ、祈りは神様への願い事なの。でも神様がいるのかなんてわからない。非科学的よね」


「あぁ、神を証明できないからな、祈りも同じくだ」


「もしそれを証明できるとしたらどう思う?」


「なに?」


「ある研究では人の祈りなどの思念は、世界や物事に微弱ながら影響を与えていると言う仮説があるわ。例えば願ったことが叶ったとか、思ってたことが起きたとかね。これがもし人の祈り、思念の影響だったとしたら?そしてそれが事実だとしたら多くの人の祈りの思念で世界に大きな影響を与えることが出来ると言う事よね」


「確かにそれはそうだが……」


「それを証明するように乱数と呼ばれるものを計測する実験では、平常時は乱数に乱れが生じないのに、大人数が集まる大規模イベントや多くの人間が祈ったり瞑想を行った場合に、乱数に極端な偏りや乱れが発生しているの。そしてこの条件を1人で起こす事が出来る人間がいるの」


「まさか……」


「現在、世界政府の機密研究所にあるデータが送られて研究が進んでいるの。そのデータの内容は精神を1兆以上持つ人物のデータ。そしてその人物の名前は福永幸太よ……」


「なんだと……」


「理論上では1兆以上の精神を持つ幸太君が祈る事で、その思念は増幅されて世界に影響を与えることが出来るかもしれないの」


「それが、幸太君の力……」


「その力を彼らは「オーラ」と呼んでいたわ。そしてそれを世界政府は狙っているの。世界を完全掌握するためにね。そして橘陽翔君も信者に狙われている。もしかしたら彼もこの目的に必要なのかもしれないの。だから私たちは幸太君と陽翔君を守らないといけないの」


「そうだな!お前たち力を貸してくれるか!?」


「もちろん!」


「任せてくださいよ!」


「よし、行動開始だ!彼らを奴らより先に保護せよ!」


「「了解!」」


 そして彼らは行動を開始した。



 2025年6月19日午後5時過ぎ。


「それにしてもフミネ、最近十分な睡眠や休憩取ってるか?すっごく顔色悪いぞ?」


「ほんと!?最近鏡を見てなかったからわからなかったわ……。睡眠はとってるけど質が悪いのかしら……」


「フミネ、今日はもう遅いし拠点で休んどいたほうがいい」


「いや、そんなことできないわ。幸太達を見つけるまではダメよ……」


 その瞬間部下が走って報告を始める。


「本隊長!わかりました!彼らの居場所!」


「なに!?場所は?」


「M県I市の山中にある双見村ふたみむらです!双見村ふたみむら付近で発生した土砂崩れの中から彼らの所持品を見つけ、辺りを捜索した結果双見村ふたみむらで彼らの姿を発見しました!また彼らは重症のようですが村人に介抱されているようで命に別状はないとの事です!」


「よし、第1隊はすぐさま移動と救急準備!5分後出発する!」


「ゼコウ、私も……」


 そう言いながらフミネは立とうとするが立ち眩みでふらつく。それをゼコウは支えた。


「ほらみろ。ふらふらじゃないか。君はここで休むんだ。俺たちが彼らを必ず保護して戻ってくる。その時にふらふらの姿じゃ先輩としてカッコが付かないんじゃないか?」


「……わかったわ。ありがとうゼコウ」


「おう、ふかふかベッドあるからゆっくり休めよ!」


 そう言ってゼコウ達は5分後双見村ふたみむらに向かった。


 フミネは言われた通り、拠点のベッドに向かう。


「ふふふ、本当にふかふかじゃない……」


 そしてフミネはベッドに沈んでいった。



 それから数時間後。


「まもなく双見村ふたみむら付近です!土砂崩れの影響で道路などは通れない状況ですので、ここからは徒歩で山道に入っていきます」


「うむ!深夜の暗い山道だ!……!全員地面に伏せろ!」


 辺りが少し揺れた。震度の低い地震のようだった。


「……もう大丈夫だな……。地震か……。先日の大雨に加え先ほどの地震で地盤もかなり弱くなっている可能性がある。だが、我らは進まなければならない!各自周辺環境を警戒しつつ進んでいくぞ!」


「了解です!」



 暗闇の中、悪路の山道を進むことはかなり危険であり、時間がかかっていた。しかしホニャイヤダは幸太達を保護すると言う目的の為に諦めず進み続けた。


「それにしても、幸太君にあるっていう力。フミネさんはあぁ言っていましたが本当なのでしょうか?」


「正直俺自身も信じきれない所ではある。だが、もしそれが本当だとしたら世界に影響を与える事が出来るって存在となる。それは神と称されてもおかしくない。そんな人間があの幸太君だとはな……。だが、どうやってそんな力を生み出すような体になったのだろうか。精神の数が多いとかって言っていたが、それがただの人間にはありえない数だってことは学者じゃない俺でもわかる」


「そうですね……。そうなってくると考えられるのは、人体改造……でしょうか?」


「あぁ、可能性は大いにあるな。近年でも人体のクローンだったりDNAの編集など禁忌とされている実験をする国もいる。そういった国が幸太の謎に関わっているのかもしれないな……」


「でも、以前彼の経歴を調べた時はそのような事実は見つかりませんでしたよ?本当に一般人って経歴でした。物語で言うと脇役、モブですよ?」


「あぁ、それが謎なんだ。それだけの特異な精神を持っておきながら、これまでなぜ捕まったりしていないのか。もしかしたら彼の特異な精神は人為的に作り出されたわけではないのか?まぁ経歴なんていくらでも書き換えることも出来るから何とも言えないがな……」


「確かに、ゼコウさんはもともとそんな仕事してますもんね。ホニャ国で大統領の指示の元、戦争などの争いを避けるため情報操作から隠蔽、諜報まで」


「あぁ、まぁもう昔の話だ……。それにしてもあの時から俺たちの組織も目的が大きく変わっていったな」


「そうですね……宇宙人から国を取り戻そうと動いていたら、いつの間にか相手が世界ですもんね!でも気持ちは変わっていないですよ!」


「あぁ。何が起きているのかわからない。何が真実なのかわからない。けど目の前で傷つけられている人がいるのなら守りたい。それが俺たちだ」


「はい!俺たちの思いは一緒です!」


「ありがとう!だから幸太君たちを絶対に助けないとな……」


「頑張りましょう!あ、もうすぐ双見村です!」



 彼らは双見村ふたみむら付近までやって来た。火の光が見える事から、現在双見村ふたみむらでは停電状態である事が分かった。


「ようやく見えてきたな。あそこに幸太君たちが……」


「なんだか外が明るいですね。こんな深夜に火を焚いているなんて何しているんでしょう?」


「恐らく先日の土砂崩れで停電が起きているんだ。そしてこの村の荒れ具合を見ると、最近の異常気象でかなり大きな被害を受けたのだろう。住む場所が無い者もいるのかもしれん。山中はこの時期でも深夜は冷えるからな、ああやって火を焚くことで暖まったりしているのだろう」


「なるほど!となると彼らの支援もしないとですね」


「あぁ、そのためにも我々は来た。我らがどのように思われようとな。救う事は辞めない」


「はい!……え?……ゼコウさん……あれって!」


「なんだと!?……どういうことだ!?」


 彼らはついに村の入り口までやって来た。


 しかしそこで見たのは、全身血だらけで地面に転がっている幸太と血の付いた棒を持った集団だった。


 これにて第20話、おしまい。

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