第18話 彼の光に後悔あり

 2025年6月18日。深夜2時を過ぎたモパンの船内では重たい空気が流れていた。


「確認させてほしいのだが、これまでに研究施設で研究された経験はないか?」


 アルパは幸太に問いかける。


「……いや、無いですね。会社の健康診断ぐらいです」


「アルパ、聞いても無駄だよ……。そもそもあんなデータを計測できるのは僕たちぐらいなんだから~」


「確かにそうだが……信じたくないのだ。我々の中に幸太を売った人物がいるかもしれない事をな」


「僕はみんなを信じてるよ。あの日、僕たちは変わろうと罪を償おうと誓ったんだよ」


「しかしデータを抜き出したと思われる痕跡は見つかっている……」


「……先輩やゼコウって可能性は無いかな~?」


「やめろ!確かにこの船に入ったことがあるのは幸太と陽翔を除くとその二人しかいないが……」


 アルパは声を荒げる。


「でも可能性は僕らを合わせて5人の誰かがやったとしか言えないよ?」


「しかしだなゼコウが来た時は我と常に一緒だった。先輩もそうだ」


「とはいえ僕達だって基本はいつも同じ部屋にいるし一度外に出た時も一緒だったよね。データの送受信も災害以降一度もしてないし……」


「全員にアリバイがある……だが動機はあるかもしれない……」


 イゴエは静かに呟く。


「そんなものあるわけが無いだろ!あの正義と人命、そして自由を重んじるゼコウがどんな扱いを受けるかもわからないのに人を売るわけが無い!先輩も以前来た時は幸太の事を助けるために検査をさせたり災害の時のことを色々聞いていた。あんなに幸太の事を心配していた人物が売るはずないだろ……ッ!」


「確かにそうだよね、彼らには動機が見当たらない。やはり僕たちの誰かが……」


「……いや、まて……」


 アルパは何かに気が付いたかのようにゆっくりと語り始めた。


「先輩は何も言わずにヨロパを去ったから何か言えない事情があるんだろうと思って聞けなかったが、何らかの目的でこの地球に来ているよな。そして俺たちはそれに幸太が関わっていると思っていた」


「うん……でも先輩はデータを見ていないからそもそも幸太の異常性には気付かないでしょ~?」


「だが先輩がデータを見ていたとしたら?」


「……確かにそれで幸太が先輩の目的に関わっているとしたら動機が生まれるね。だけど先輩がデータを見れるような自由な時間は無かったと思うけど~?」


「ジダイの言う通りだアルパ。それは……!いや、あるな……」


「イゴエ、そんな時間は無いはずだよ~?」


「あの時だ。幸太が船内で火災警報装置を起動させた時、俺たちは操舵室でそれぞれ対応をしていた。その間先輩はフリーだった……」


「……ホントだ」


「その通りだイゴエ。さらに幸太を船内に入れて検査をした時、先輩は幸太の当時の状態などを事細かに聞いていた。そして我々が当時意図しない現象が発生していたと話した時に彼女はこう話したんだ。「それじゃあまるで彼の叫びをきっかけに、会社内で異常現象が始まって外でも災害が起き始めたみたいじゃない……」ってな」


「それがどうしたの、別に変じゃないでしょ~?」


「いや、おかしいんだ。彼女は幸太が異常現象を引き起こし災害も起こしたんじゃないかと言ったが、通常であれば災害などの現象が会社内での異常現象を引き起こしたと考えるだろう。それに先輩は最後にこうも話していた。「それならば、まさか彼には」とな。これはもともと幸太の異常性を疑っていた人間でないと言えないのではないか?」


「……まさか先輩が!?もしそうだとしたら先輩は、幸太に何かしらの力がある事を知っていた事になるよね~」


「あぁ、幸太が災害などを引き起せる力があるとな……」


「ちょっと、待ってくださいよ!皆さんさっきから想像の話しかしてないじゃないですか……。その先輩って幸太の会社の先輩、冨峯まどかさんの事ですよね。そんな幸太の前で話すのは酷ですよ。それに幸太が災害を起こしたとか、そんな事言わないでって昨日も言いましたよね……」


 陽翔が彼らの議論を止める。


「すまない……また我らは君たちの気持ちを考えていなかった……」


 アルパは幸太達に謝る。そんな時船が突然轟音と共に激しく揺れる。

 

「いったい何が起きた!?」


「どうやら何者かに攻撃されたらしいよ!相手は不明!」


「なんだと!?我らの船は常時完全ステルスで地球人には目視すら出来ないはずだ!しかも今は深夜だぞ!」


「アルパ、突如目の前に高熱原体を感知……姿を現し始めた……」


「あれは……」


 そして突如船内に通信が入る。


「目の前の機体より通信が入ってるよ……どうする?……」


「……回線を繋げ」


「……了解」


 ジダイは回線を繋ぐ。モニターには見知らぬ人物が映っていた。


「誰だ!なぜ僕たちを捉えられるんだい!?」


 ジダイが叫ぶ。そしてその人物は冷酷に告げる。


「君たちモパンに選ばせてあげよう。そこにいる福永幸太と橘陽翔を引き渡すか、君達を殺して強引に福永幸太と橘陽翔を奪われるか選ぶがいい」


「殺してでも奪うだと!?……なぜ幸太達を狙うんだ!?」


「その福永幸太が世界を、いやこの宇宙全てを滅亡させる元凶だからだ……それを防ぐためには彼らを保護する必要がある」


 全員が動揺する。


「幸太はただの人間ですよ!?」


「君達も知っているんだろう?幸太が膨大な精神を持っている事を」


「それが何だっていうんですか!?」


 陽翔は叫ぶ。敵は淡々と話す。


「その膨大な精神は「オーラ」と呼ばれる思念集合体で、遥か太古から人を選んで憑依することで存在してきた。そしてオーラには選ばれた者の願いを叶えると言う力がある。その力でその福永幸太は世界を崩壊させている」


「そんなの言いがかりだ!そんな力があるもんか!」


「しかし現に世界では異常気象が発生している。君たちもT市で大災害にあっただろう?あれは世の理では説明出来ない、オーラの力以外ではな。その力で福永幸太は全ての者を不幸にする。信じるも信じないも君たち次第だが選べる選択肢は2択だけだ。素直に引き渡すか、殺されて奪われるか選べ」


「そ、そんな……」


「……なぜですか。なぜ陽翔もなんですか、貴方の話が本当なら僕だけで十分なはず……」


 黙っていた幸太が問いかける。


「それを君たちが知る必要はない……。さぁ選べ。死にたくはないだろう?素直に渡すのが賢い選択だぞ」


「断る」


 アルパは静かに即答した。


「どんな理由があろうと人を傷つけてでも自らの目的を叶えようとする貴様に彼らは渡せない」


「なら君達は抵抗して皆殺しにされて強引に奪われることを選ぶのだな」


「そんな事はさせない……。たとえ殺されたとしても彼らは我らが守る」


「そうか……。最後に君達を殺す我が名を教えてやろう。我が名はミフジ……さらばだ、ルアル、ダジゲ、ゴイシ……」


 そして回線は切れた。


「「!?」」


 回線が切れると同時に眼前の機体は姿を消し、再び船に衝撃が発生する。


「……!イゴエ!T粒子を開放!フリーコントロールで戦線を離脱しろ!」


「まさか……」


「イゴエ!今は戦闘に集中しろ!イゴエ!」


「……!すまない……T粒子開放!戦線を離脱するッ……」


 イゴエの操作でモパンの船は急加速を開始。光を超える速度で船は一瞬でハワイ周辺まで移動した。しかし移動した直後に再び攻撃を受ける。


「なんだと!?振り切ったはずだ……」


「奴の船は戦闘用だ!とにかく回避を優先させるんだ!」


 ――我らの船では戦闘用機体を常時探知することも出来ない。武装も威力が低すぎて通らないだろう……。どうする……ッ!


「どうする!アルパ!?」


「……ジダイ。敵船を探知することは可能か?」


「うん……。M粒子を散布することで一瞬だけなら捕捉は出来るけど……まさか!?」


「アルパ……」


「あぁ……それしか方法は無い……。そして相手が誰であろうとな……」


「そっか~。いいよ!僕はアルパに最後までアルパについていくよ~!」


「俺も同じくだ。俺たちは一心同体だ……」


「お前たち……最後まで俺に付き合わせて悪いな……福永幸太君、橘陽翔君。君たち地球人にはこれまで多くの罪を犯してしまった。その贖罪に人生をかけて自分たちに出来る事を考え行動していたが、どうやらそれも果たせないようだ」


「み、皆さん何を……?」


 陽翔が問いかけようとした時にアルパが遮る。


「最後まで自分勝手で申し訳ない。だが、最後に君たちだけは守って見せる」


「短い間だったけど楽しかったよ~。これからの未来を楽しんで~!」


「さらばだ……」


 そう彼らが話すと船は再び急加速。そしてどこかに移動したと思った瞬間に幸太と陽翔の体は強い衝撃を受ける。


「いった……、え?ここは!?」



 2人は気付くと見知らぬ森の中に移動していた。


「どういうこと!?モパンさんたちは!?」


「よし、幸太達を下ろせたよ~!」


「よくやってくれたジダイ」


「えへへ~。でも次にゼコウに会ったらまた怒られそうだね~」


「間違いない、奴は厳しい……」


「いつ会えるかな~」


「……恐らくそれはずっと先になるだろうな。いや、そうであって欲しい」


「そうだねぇ、ゼコウ達も幸太達もこれから先、幸せに生きて欲しいね~」


「アルパ、全ての準備が整った……」


「了解した。T粒子加速を開始。M粒子を散布し敵船を捕捉後、敵船に向けて進路を取れ!」


「「了解!」」


 ――我が同胞の過ちは自らでケリを付ける……。ゼコウ、これが最後の贖罪だ……。

 


 2人暗闇の中、必死に彼らを探す。その時一瞬辺りが明るくなる。


「え……」


 その遥か遠くで光る何かを見た時に幸太の左腕に小さな痛みが走る。


「いたっ……」


 そして空気の流れが変わり、奇妙な風が幸太達を包む。


 陽翔はそれを見て一言呟く。


「あれは……まさか!」


「……」


 2人はその赤く照らされていた空をただただ見ているしか出来なかった。



 そして同時刻、ある場所にて。


「なんだ、今の光は!?」


「わかりません!南東の方角より何かが爆発したと推測できますが、詳細は不明です!」


「ゼコウ本隊長!やはりT市に彼は居ませんでした!家の中には多数の人間が侵入した形跡がある事からすでに逮捕されたのか、数日前にこの家に宗教団体の集団が詰め寄せていたという情報もあり連れ去られた可能性もあります!」


「なんだと……幸太君……一体何が起きているんだ!」


「本隊長!副隊長より入電!」


「なに!?……読み上げてくれ!」


「はい読み上げます。 ゼコウ。連絡が出来なくてごめんなさい。あの報道されている幸太の指名手配は政府の陰謀なの。彼らは幸太の力を使って何かをしようとしている。私は幸太を助けるために潜入調査をしているわ。幸太は彼の友人の橘陽翔っていう男性と一緒に行動しているはずよ。お願い彼らを保護してあげて。 以上です」


「幸太の力だと?……一体どういうことなんだ……」


「本隊長どうしますか?」


「うむ、第1から第3隊は福永幸太及び橘陽翔の保護を最優先事項とする!そして第4隊は現状の把握のための情報収集、第5隊は先の爆発を調査せよ!」


「了解!」


 ――福永幸太君。君は一体何者なんだ……。


 これにて第18話、おしまい。

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