叶わない恋でも

杏樹

叶わない恋でも

私の好きな人には好きな人がいる。

それでも好きなのは何でだろう。

「お前、寝ぐせついたままだぞー」

わざと。

貴方にそう言って頭を触ってもらうため。

「だって遅刻しそうだったんだもん!」

嘘。

貴方に会うためにばっちりたれ目のメイクをするの。

髪の毛だってあなたが好きなゆるふわ巻き。

「あ、会長だ!会長ー!」

校則を馬鹿真面目に守っている髪色が良く似合う。

私よりスカートが長くて、靴下も学校指定のもの。

「会長、今度勉強教えて欲しい」

私にお願いするときよりも優しいトーン。

見ていればすぐに会長が好きなんだと分かるほど私の好きな人は素直な人。

「タイプと全然違うじゃん。何が好きなの?」

会長を目で追う私の好きな人にそう聞いた。

「あくまでもそれは理想だよ。何が好きってよりも…多分会長が好きなんだわ!」

眩しいほどの笑顔が昔は嬉しかったはずなのに。

「そういや、香水新しい?俺、その匂い好きだわ!」

そう言って走り去る私の好きな人はただ真っ直ぐに会長のもとへ向かった。

勝ち目なんてないってずっと分かってた。

好きな人の理想の女の子になったところで私を好きになってくれる保証はどこにもなかった。

それでもまだチャンスがあると思っていたかった。

「ん、また口に付いてる!いい加減俺離れしろよな」

離れたくない。

無条件の優しさを貴方が振りまくから悪いの。

嫌いになってもすぐに好きになっちゃう。

だから、もう少しだけ。

あと少しだけ、叶わない恋だとしても。

貴方の横であなたの理想の女の子を演じさせて。

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叶わない恋でも 杏樹 @an-story01

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