第5話 サクヤ、推しに目覚める

神さまに必死に祈っていたら、

目の前に神さまが居た。


(ええええええぇぇぇー!?)


桜色に輝く長い髪。

ふっくらしてぷにぷにしてそうな顔。

見たこともないほど白い衣。

目を引く鮮色の長いはかま


まさに常人とは思えぬ姿だった。


(ふわあああぁ♡ 素敵!!)


思わずサクヤはときめいてしまうのだった。

そんな可憐かれんで神秘的な存在としばし見つめ合う。


サクヤの気持ちを知ってか知らずか、

神さまはこちらに微笑むと、声をかけてくれた。


『にゃっはろ~』


言葉が通じなかった。


!!!??????


サクヤは思わずヒクつくように首を傾げてしまう。

まず、神さまの言い回しが自分たちと違いすぎて意味がわからなかった。


さらにサクヤが混乱するのを他所よそに、

神の意思がサクヤの脳内に瞬時に伝送される。

まさに脳天直撃! 雷に打たれたような衝撃だった。


わからない言葉を読み飛ばして何とか理解しようとするが、

内容もやっぱり意味がわからない。


「サクヤ。届いたのだね」

「ぁ…」


目の前には心配そうな顔つきをしたオババ。

その先には今も言い争いしているムラの者たち。

サクヤは一瞬の神秘体験に頭がくらっとしたが、

倒れ込みそうになるおのれを必死に押し留めてオババに報告する。


「はい。でも全然わけが分からなくて……」

「そんなもんなのさ。神さまなんてのは」


どこかうんざりしたような様子を見せるオババ。


「神さまはこちらの言うことなんてろくに聞きやしない。

 あっちの言っていることはワシらには意味がわからない。

 わからないなりに何とかするしかないのさ」


オババは独りごちていたが、サクヤはそれどころではなかった。


「そんなことよりも…。いえ、それどころではなく」

「ふむ…何があったか話してみよ」

「神さまかわいい!!! 『せる』♡♡♡」

「…………」


サクヤはうっかり2000年後の概念まで受信してしまっていた。

日本始まったな。


「ふおおぉぉぉ~~!!!」

「……どうどう。サクヤ、落ち着きなさい」


オババはどこか可哀想かわいそうなものを見る目でサクヤを落ち着かせる。


「……はっ!? 失礼しました!」


シャーマンは自身の精神を極度に興奮させることで

常人には得られない体験や情報、判断を得るのが役目である。

サクヤのような神秘体験は得難い成果であった。

だが、神秘体験は神秘体験。

現実の問題解決に役立てなければ意味がない。


「サクヤ。このまま堤を修理するのか?」


サクヤは首を振る。


「山狩りをするのか?」


またも首を振る。


「ではどうする?」


「その…」


あまりにも突飛な内容で、口に出すのさえ抵抗を感じるくらいだった。


「謝れ、って言っていたように思います。姉妹かもしれないと…」

「謝れ? 姉妹?」


互いに向き合ったサクヤとオババが逆方向に首を傾げる。

まるで鏡合わせだった。


「私にはさっぱりです」

「ワシもだ。だが神世と下界の橋渡しをするのが我らの役目。

 何とかするしかあるまい」

「はい…」


力なくうつむくサクヤ。


「まず、姉妹かもしれぬという話。

 堤を壊した曲者どもがそこらのならず者ではなく

 ワシらの神さまと姉妹神の氏子うじこだった場合、どうするか?

 敵対するのは得策ではあるまい」


井原の神の御神体は大きな桜の木だ。

桜の木の姉妹…。柿の木か何かかな?

サクヤは瑞々しい柿の実を頬張ほおばりたくなったが、

春先の今、手に入るわけがないし、

それどころではないので首を振って忘れることにした。


「次に謝れと言う話。

 曲者どもを蹴散けちらすのではなく、やつらに謝れということだが、

 姿も見せぬ奴らにどう謝れというのか」


確かに。

相手が目の前に居ないのにどうやって謝るのだろう?


「相手が分からぬ状態で話し合って詫びることはできぬ。

 代わりに貢物を送るという案でいこう。

 ムラ同士のめ事の場合はこの手で済ませることもあった」


なるほど。さすがはオババ様、年の功!


「これで決まったな。決を知らしめよ」

「はい!」


心を決めた二人は男たちの方へ向かうのだった。

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