敷島戦争

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 ──敷島戦争



『──敷島人民共和国は敷島統一革命と称し、敷島国に侵攻を開始しました。これに対してアルカディア連邦はアレン国務長官が『一方的な武力による現状変更は許されない』と非難声明を発表した他、ウォーレン国連大使が──』


 戦争が起きた。最悪だ。


「諸君。我々は先に勃発した敷島人民共和国の敷島国への侵略行為に対して行動をとることになった。それによって我々はこれより川港海峡を越え、北辰州へと進出する。すぐさま準備するように!」


 そう命じるトンプソン大佐は明らかにビビってて顔色は真っ青だった。


「クソ。マジで戦争なのかよ」


「俺たち生きて帰れるかなあ……」


 トンプソン大佐の命令の後で愚痴っているのは浅黒い肌をした下士官2名。


「安心しろよ、マット、アンディ。俺たちみたいな実験部隊はどうせ後方待機さ」


 こいつらはマテオ・ロサリオとアンドレス・ロサリオ。愛称はマットとアンディでイスラ・ドラーダ系アルカディア人。ふたりとも階級は軍曹だがアンディが兄貴で先任だ。俺がここに配属されたあとで、すぐに仲良くなった人間でもある。


「信じていいのか、アーサー? 俺たちみたいな有色人種はきっと白人様の盾にされちまうんじゃないか?」


「それは違うな。栄光ある前線での戦いは白人様がやって、俺たち有色人種はその後片づけだよ」


「でも、あんたの親父はユーロニア戦線で戦死したって言ってたじゃないか」


「あー。まあ、あれは運が悪かったんだろう」


 クソ。考えないようにしていたが、アルカディア連邦は先の大戦で敷島系アルカディア人を危険地域にガンガン投入した過去がある。今回もそうなっちまうのか? 肌が黄色いアルカディア人と黒いアルカディア人は死んでもいいって?


「どうしたの? ひょっとして怯えている?」


 と、ここで俺たちを冷やかすような女の声が。


「アーデ。あんたはどう思うね? 俺たちは前線送りだと思うか?」


 俺がそう呼び掛けるのは白人の若い女だ。見事なまでもプラチナブロンドをミディアムボブにしており、そのアルカディア陸軍の戦闘服を着た体はスレンダーながら出るところは出ているという軍隊よりバニーガールでもやってる方が似合う女。


 アーデルハイト・フォン・ファウスト。この第666装甲戦闘団で唯一の白人のシェルパイロットであり、ノルトライヒ系アルカディア人。ノルトライヒってのはドイツみたいな国で前の大戦でぼこぼこにされた国だ。


「十中八九、前線送りでしょう。よく考えてみなさい。どうみてもこの部隊はろくでなし部隊よ。有色人種カラードに前科持ち、あるいは私みたいな素性の怪しい人間ばかり集めてある。でしょ?」


 否定はできねえ。


 この第666装甲戦闘団ってのは有色人種ばっかりだ。


 シェルのパイロットはアーデを除けば全員が有色人種。


 戦闘団って名がついている以上、諸兵科連合なわけだが、その砲兵やら工兵やらも有色人種や前科持ち、または両方。補給部隊に至っては物資の横流しやったやつが、軍法会議を逃れてそのまま配属されてやがる。


 アルカディア軍上層部からすれば『犠牲になってもちっとも胸が痛まない部隊ランキング・ナンバーワン』なのは間違いないだろうさ。


「やっぱり俺たちは白人の盾にされて死んじまうんだ……! クソッ!」


「国に帰りてえよ、母ちゃん!」


 アーデが脅すせいでアンディとマットが揃って泣き言を言い始めた。


「馬鹿野郎! 生き残りたきゃ気合を入れろ! 俺たちは絶対に生き残るんだ! 俺についてくれば必ず生かしてやる!」


 アンディもマットも俺の部下だ。生き残らせてやりたい。


 何より俺自身が一番生き残りたい!



 * * * *



「メタル・ワン、応答せよ! こちらメタル・ツー! 応答せよ、メタル・ワン! フリーマン大尉、フリーマン大尉! 応答してくれ! 頼む! クソッタレが!」


 俺たちが布陣した陣地に無数のロケット弾が降り注ぐ。カチューシャロケットだ。


 そのカチューシャロケットに続いて野砲の砲撃が降り注いできた。俺たちがシェルを重機代わりにして掘った掩体壕に無数の砲弾が雨あられと降ってきて、シェルがガンガンと音を立て、俺たちは悲鳴を上げる。


 俺たちは川港についてすぐに前線行きを命じられた。


 川港から55キロ離れた場所に戦線があって、そこで友軍が遅滞戦闘をやっているという話だった。俺たちはトレーラーでシェルとともに移動し、そこに陣地を構築した。


 第666装甲戦闘団には12機のM901「グリフィン」歩行戦闘車両と4機のM1001「ウォーカー」歩行戦闘車両がある。


 M901は俺が乗っている二足歩行型で、M1001は四足歩行型で口径90ミリライフル砲で武装している。ほとんどこっちの主力戦車と同等の火力だ。


 俺たちには全く知らされていなかったが、こっちの空軍がけちょんけちょんにやられちまっていたらしい。布陣した俺たちを最初に襲ったのは敷島人民共和国の赤色空軍が有する攻撃機と空中艦の攻撃だった。


 空中艦──代替科学で発明された反重力炉を備えた空飛ぶ軍艦だ。


 敷島人民共和国はレシプロの攻撃機の爆撃に加えて、この空中艦による攻撃を地上軍による攻撃前にに実行してきた。


 口径57ミリ機関砲と口径82ミリロケット弾で武装したR7001級空中駆逐艦と口径85ミリ機関砲と口径132ミリロケット弾で武装したR8001級空中巡航艦。それらが俺たちの作った陣地に爆撃に次ぐ爆撃を加えてきた。


 そのせいで部隊の指揮官である大尉は音信不通になり、さらに間髪入れず敵の大規模な準備射撃が始まっちまったってわけだよ、クソッタレ!


『メタル・ツーよりジャンクヤード! メタル・ワンとの通信が途絶! 繰り返す、メタル・ワンとの連絡が途絶! 指示を求む!』


 俺は敵の砲撃が続き、敵地上軍が確実に迫る中で第666装甲戦闘団司令部──コールサイン・ジャンクヤードに指示を仰いだ。


『ジャンクヤードよりメタル・ツーへ。指揮を引き継ぎ、遅滞戦闘を徹底せよ』


「了解だ、クソッタレ!」


 俺が指揮官を引き継ぐことになり、状況を素早く確認する。


 恐らくは共産圏の親玉であるソヴァーク社会主義国仕込みの猛烈な砲撃に続いて、すぐさま地上軍がなだれ込んでくるはずだ。戦車を先頭にして、機械化歩兵が続き、突破口の形成と拡大を実施するに違いない。


 戦闘中の軍隊が何をやるかと言えば、もっとも脅威になる相手を叩くことだ。


 つまり、俺たちの仕事は俺たちのシェルを撃破し得る戦車を叩くこと。


「メタル・ツーより各機! 状況報告!」


『メタル・スリー! 何とか生きてる!』


 16機のシェルのうち、10機が無事だった。アンディとマットも、そしてアーデも無事だ。しかし、6人は死んだか、戦闘不能だ。畜生。


「いいぞ、野郎ども。狙うのは敵の戦車だ。戦車だけを狙え。装甲兵員輸送車APCやトラック、歩兵の類は無視しろ。いいな!」


『了解!』


 俺が無線で指示するのに各機から了解の返事が返ってくる。


「クソ、クソ、クソ。状況は最悪だぞ、クソッタレ」


 現在、この川港に続く街道に展開しているアルカディア陸軍は歩兵1個大隊、戦車1個中隊、砲兵1個中隊、そして俺たち第666装甲戦闘団を基幹にした諸兵科連合部隊だ。


 対する敵は砲撃の規模からして連隊、旅団相当の地上軍と思われる。


 つまりは敵は俺たちの3倍か、4倍。


 どうにかなるのかって? どうにかするのが兵隊の仕事だよ、クソが!


……………………

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