【KAC20253 特別編SS】ようせいは「こころん」

宮沢薫(Kaoru Miyazawa)

ようせいは「こころん」

 新卒社員が無事に入社式を終わり、ステラグロウトイズの向かいにある小学校もにぎやかになってきた。近くにある小さな公園にも桜の花がきれいに咲いている。


 気分転換に休憩スペースで作業していた阿部鈴音あべすずねは、思い切り背伸びをして隣のビルしか見えない西側の窓をふと見つめた。


「ここからだと春の陽気はわからないわ」


 帰りは新宿伊勢丹へ立ち寄って桜スイーツでも買おうかしら。慌ただしかった年度末を乗り越えたご褒美を考えながら、ヘルプデスクの島にあるデスクへ戻った。


「お疲れ様。さっき配信されたグループ報読んだか?」


「まだ読んでいないのですが……町田さん、何か気になる記事でも出ていましたか」


 町田は四角い顔を鈴音に向けて、とある記事を指さした。



 ステラグロウゲームス、S大学と共同でトイズマスコット「こころん」の教育用シリアスゲームを開発へ


 ステラグロウゲームスは、ステラグロウトイズの人気マスコット「こころん」を使った乳幼児向けの教育用ゲームをS大学教育学部A教授のチームと共に開発する動きになりました......。



 町田の横で記事を読み進めると、知的好奇心の強い乳幼児を対象に、付属する絵本のイラストを元にことばの意味や使い方などを知るタブレット向けのゲームだという。

 タブレット内のカメラでリンゴをうつすと、妖精姿の「こころん」が「リンゴだよ」と声を出して話す機能はどこにでもあると思う。絵本のリンゴを押しておしゃべりするおもちゃがすでに販売されているからだ。

 新しい試みとしては、タブレットのカメラで絵本内のテレビを認識すると、妖精の「こころん」がテレビに変身し、画面をタッチすることで様々な動作をすることができる機能がつくことだ。スイッチのオンオフだけでなく、番組の切り替えもできるようだ。今はやりの拡張現実AR機能を教育用に活用した事例にもなるという。


「今のおもちゃって高機能ですね」


「俺の時代なんか、ロボットトイか変身ベルトみたいな身に着けるものメインだったぞ」


 雲みたいな「こころん」のぬいぐるみストラップをぶら下げながら、町田は社員用スマートフォンを持ち上げた。ミリタリーの帽子を被れば冒険アドベンチャー、動物の耳をつけたら癒し系。シンプルだからこそ「こころん」のアイデアは無限大になるが、とうとう妖精として子どもたちを見守る立場になるとは。町田がつけているものは、隣の病院用に配られるナース姿だ。


 時代が変わればニーズがかわる。これはおもちゃのマーケティングやプロモーションをゼミで学んでいた鈴音にはわかる気がする。


 このおもちゃは、開発が進めば横浜市内の三つの医療機関の小児科で実際に検証するという。外に出られず退屈な日々を送っている子どもたちが、これでつらい生活を忘れて欲しいと妖精姿の「こころん」がほほえんでいるような気がした。



参考サイト

"シリアスゲームとは?学習につながるゲームの効果や事例を徹底解説!".株式会社NEXERA.https://marketingtown.jp/sp_content/seriousgame/

"ARとは?VR・MRとの違いを分かりやすく解説".クラウドサーカス株式会社.https://www.coco-ar.jp/media/column/ar-vr-mr

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