彼女を親友に寝取られた俺の前に現れたのは、復讐が生き甲斐の後輩女子だった
赤木良喜冬
第1話 青春の終焉
放課後の教室の空気は相変わらず弛緩している。
帰り支度を整えた生徒達が談笑しながら次々と教室を去っていく中、俺——
画面には、たった今届いたメッセージが表示されている。
『悠斗、今日一緒に帰れる?』
俺の彼女、
すぐに「うん」と返信し、鞄を肩にかけた。
教室を出る前に、小学校からの親友である
「ごめん、俺もう帰るわ」
「ほーい。楽しんでこいよー」
「ありがとう、それじゃ」
翔はサッカー部のエースで、学校でも人気者と言っていい存在だ。コイツのお陰で、俺は陽キャの瑠璃と接点を持てた。翔がいなきゃ、カーストがかけ離れた彼女を好きになることすらなかっただろう。
平手を振って教室を出ると、瑠璃との待ち合わせ場所である校門へ急ぐ。
校内は窓の外から差し込む斜陽に照らされ、茜色に染まっている。
瑠璃とは、今年の春から付き合い始めた。
学年が上がり、運よくまた同じクラスになれたので思い切って告白したのだ。
もちろん、フラれる前提で。
当然ながら天真爛漫なクラスの高嶺の花と、俺のような隠キャが付き合えるなんて一ミリも思っていなかった。
だから豪快に散って、一年の時からの片思いをしっかり終わらせて、学業に専念するつもりだったのだ。
でもなぜか、彼女はOKを出した。今でもこの現実が夢なんじゃないかと思える。
「
瑠璃が校門前で手を振っている。
セミロングの茶髪が夕陽に照らされ、金色に輝いていた。
「ごめん、遅くなった」
「大丈夫だよ。今からさ、新しく駅にできたカフェ行ってみない?」
「いいね、行こう」
自然と繋がれる手。
最初の頃は手汗の心配とかしてたけど、二ヶ月も経てばすっかり慣れた。
きっと自分の中で、彼女と手を繋ぐことが当たり前になった証拠だろう。
瑠璃といられることが嬉しくて、周囲の視線など気にならない。
駅へ向かって並んで歩き始めた。
会話が途切れることもあるけれど、そんな時間も愛おしい。
明日も、明後日も、その次も、こんな日々が待っている。
学校も悪くないと思えた。
***
数日後、教室での昼休み。
俺が腕を枕に仮眠しようとすると、隣の席の
「お前、最近橘さんとどうなんだ?」
「……どうって?」
「いや、変な噂が流れてるぞ」
「変な噂?」
全く心当たりがなく、顔を上げて不破に怪訝な視線を向けた。
「ああ。瑠璃が他の男と二人でいるのを何度も見たって話だ」
ドクっと、心臓が嫌な鼓動を刻む。
まさか、そんなはずはない。
「……誰と?」
「いや、それは俺も知らないんだが」
「そうか……」
心の中がざわつき出す。
一体誰と……まさか瑠璃が浮気を!?
いやでも、昨日だっていつも通りプリクラ撮りに行ったし……。
「ま、ただの噂かもしれないけどな」
不破はそう言って話を終わらせたが、俺の胸の中には不安が渦巻き続けていた。
お願いだ、従兄弟のお兄さんとかであってくれ。
人生で初めてできた彼女が浮気してるなんて、俺は絶対に信じたくない!
その日の放課後、俺は我慢ならなくなり、確かめてみることにした。
瑠璃には課題があって一緒に帰れないと伝え、学校を出ていく彼女の跡を、こっそりと追う。
こんなことをする自分に嫌悪感を覚えながらも、動かずにはいられなかった。
浮気ではないと知って、一秒でも早く安心したかったのだ。
大通りに出る瑠璃。
絶え間なく行き交う車の走行音が耳障りに感じる。
そのまま特に何事もなく、俺達は駅に到着した……帰宅するつもりか?
どうやらそのようで、彼女は階段を上がっていった。
「…………瑠璃?」
改札へ向かうと思った瑠璃だったが、彼女はその横にある、この前一緒にいったカフェへ入っていった。
「え………………」
そして、俺は見てしまった。
瑠璃の隣には確実にうちの学校の男子生徒が座っていた。
彼と話す瑠璃は、俺といる時よりもずっと楽しそうな笑顔を浮かべている。
しかし、衝撃はそこで止まってくれなかった。
「おい、嘘……だろ」
瑠璃の隣にいる男子生徒。
その正体は親友の、桑原翔だった。
どうして翔が…………いや待て、あいつらは普段から仲が良い。クラスの同じ一軍グループのメンバーだ。
だから瑠璃はきっと、今日は俺と帰れなかったから友人の翔を呼んだんだ。なんだ、そういうことか。そうに違いない。噂の男の正体も、翔に違いない。
必死に自分に言い聞かせていたが、それは長くは続かなかった。
頭の中が真っ白になった。
翔が瑠璃の手を握り、瑠璃はそれを拒むことなく受け入れた。
見つめ合う彼と彼女の二人が放つ雰囲気は、恋人同士のそれとしか言いようがなかった。
信じたくない。でも、目の前の光景が全てを物語っている。
俺は、彼女にも、親友にも裏切られて……
カフェの前でひたすらに立ち尽くす。
こんなところにいては邪魔なことくらいわかっている。
でも足が動いてくれない。
スーツを着た大人達が舌打ちしながら通り過ぎていく。
停止した思考を無理やり動かし、俺はポケットからスマホを取り出した。
震える指で瑠璃にメッセージを送る。
『今日の夜、話せる?』
すると目の前で瑠璃が、大層煩わしげにスマホをいじり始めた。
届く返信。
『ごめん、用事』
その簡潔な一文で、俺は現状を確信した。
——ああ、もう終わりなんだな。
スマホを強く握りしめ、深く息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます