悪戯妖精の守り方

花月夜れん

悪戯妖精

 私が彼に告白出来たのは悪戯妖精のおかげだ。

 だから、もう一度会ってお礼を言いたい。どうすれば、あなたに会えるのかな。



 私の生まれた国には不思議な妖精がいる。見た目は小さな人間で飛ぶ翅を持っている。この妖精達は一人に一人。赤ちゃんが生まれた日にどこからか現れて、寄り添う。そしてその寄り添った人が死にそうな目にあった時一度だけ助けてくれるらしい。そして助けたあとは姿を消す。ほとんどは小さな頃の病気などで妖精は去っていく。

 だから、成長しても妖精がいる人間はすごく少ない。赤ちゃんの頃丁寧に扱われた王族貴族がほとんどだ。だけど、私の横にはその妖精(らしい)ヤツがいる。いつも悪戯ばかりしてくる小憎たらしいコイツはヨーセー。悪戯する時にお父さんが「よせ、やめろ」と言うから私が真似して「ヨセ、ヨセ」とコイツの事を呼んだから。ちなみに私の名前はフェアリー。まあ、そんな事はどうでもいいか。


「おはよう、フェア」

「おはよう、ギル」

「今日も悪戯に磨きがかかってるね」

「そうなのよ。まったく困ったものだわ」


 ギル、……ギルバードは幼馴染の男の子。彼は赤ちゃんの頃妖精を失っているけれど、その後は健康だったためすごく逞しい青年になっている。小さな頃からずっと仲良くしてくれている。でもそれ以上の関係ではない。私はほんの少し期待しているけれど、彼からそういう言葉をもらった事はなかった。

 そして、現在進行系で悪戯されている私の髪の毛。くるっくるに巻かれてどこぞのお姫様みたい。普段はどストレートの髪なのにいったいどうなってるんだろう。

 妖精は喋らない。だけど、笑ったり泣いたり怒ったりはしてる。だって、いまもお腹を抱えてすごく笑ってる。


「あれ、誰だろう?」

「高そうな……お貴族様の馬車だな」


 きらきら輝く宝石で装飾されたそれは私の家の前で止まった。

 城からの使いだった。妖精を残した女性をいっせいに集め貴族たちの婚約者にしようという話が出ているのだという。からくりは簡単だ。妖精がいるなら、一度は死から助けられる。貴族と結婚出来るかわりに貴族たちの盾になれという事だ。

 平民である私に断る事なんて出来ない。だから、両親は承諾し私は城へと連れて行かれた。すぐに相手を決められ、相手の屋敷へと連れて行かれる。

 目まぐるしく決まっていく。だけど、私は行きたくなかった。だって、私が好きなのは――。

 向こうの気持ちなんてわからない。だからちょうど良かったじゃないか。切り替えてしまえば。


 到着してすぐ、ヨーセーの悪戯が炸裂する。私には慣れっこのそれが相手の癇に障ったようだ。でも、そうね。いつもより悪戯5割増くらいかもしれない。


「こんな悪戯妖精持ちの女と結婚など出来るか! いますぐ出ていけ!!」


 屋敷の門の外へと追い出される。どんと押されて追い出されたせいで地面にこすった膝が痛い。どうすればいいかわからなくて泣き出しそうだった。悪戯の原因を怒ろうと思ったら、ヨーセーの姿がどこにもいなかった。きっと怒られたくないからって隠れてるんだ。

 立ち上がり、とぼとぼと歩き出す。その先にギルバードがいた。ボロボロの靴。まさかここまで歩いてきたの? でも、どうして?


「ギル……」

「フェア」

「私ね。あなたが好き。だから、帰りたい」

「うん。僕もだ。ずっと言えなかった。今さら遅いかもしれないけれど言いたくて探し回っていたんだ」


 二人で家に戻った。連れ戻されるかと思ったけれど妖精がいなくなった私に城からの迎えはこなかった。


 二人で幸せに暮らし始めて、数年後。恐ろしい噂話を耳にした。何度も妖精付きの女性を嫁に迎え入れるある貴族の家でたくさんの死体が見つかった。貴族は捕らえられたそうだ。その時にそれらは見つかった。貴族は一度では死なない女をもう一度殺す趣味を持っていたのではないかと噂されていた。


 ヨーセーは私の命を助けてくれたからいなくなってしまったのかな。

 震える私をギルバードは優しく抱きしめてくれた。

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