中編

都合の良い天の声:side


 第1話目から何の前触れもなく戦闘になったのでここで補足説明。

 この異世界は【ジョブ】によって得られる【スキル】や【魔法】が決まる。

 ジョブとは人類が生まれた時から必ず持っているもの。大抵の者は生まれた際は【村人】などが定番であるが、成長によってジョブも変化して、稀に生まれた時からとんでもないジョブである場合もある。


 そして、今現在【一応魔王な破滅の巨人】と戦っている兄(転生者)は【アサシン】の暗殺系のジョブ、妹(転生者)は【勇者】の幻の激レアジョブとなっている。


 これらはこの兄妹を転生させた神ジジィの特典の一つ。武器装備も彼らの専用の一点物となっている。チート扱いされても仕方ない特典尽くしだったりするが、一つだけ大きな問題があった。




 ……と前振りっぽくしてもタイトル見ている人なら気付いて当然であるが、神ジジィのうっかりミスで転生特典がジョブごと入れ替わってしまっていた。

 



 つまり、どうせ転生したんだから勇者にでもなって王道的なデビューをして、行く行くは王女と結婚したりハーレムでも目指そうと……実は下心も満載だった残念な兄ユウと。



 そして兄の魂胆が丸っとお見通しだったので、ならアサシンとなって陰でこっそり暗躍しながら兄のしょうもない願望を粉砕して何年もいじり倒して、最終的に自分の面倒でも見て貰おうかと……実はでもなく思いっきりブラコンで義妹のユキ。


 そんな2人の思惑が神のドジで狂ってしまう。そんな愉快なスタートをした彼ら兄妹の異世界の過ごし方についての話である。





 苛立たせる二匹の侵入者を前に【魔王】こと【炎獄の巨人】は自身を拘束していた封印と結界を力任せに破壊して起き上がった。


『グルォォォォォォオオオオオオ!!』


 そして月明かりの夜空に向かって勢いよく咆哮を上げる。


 大気を震わせるほどの超雄叫び。結界や巨人の存在によって近くに人や生き物はいないが、遠く離れている村や生き物が棲む森にまで届くほど。

 あまりの咆哮に寝ていた人々は悪夢でも見たかのように目を覚まして、また生き物たちも自分たちの命を食い尽くすような存在感ある雄叫びによって冷静さを失いパニックを起こしていた。


 これが魔王と呼ばれている巨人の潜在能力。

 まだ一部に過ぎないが、既に破滅の一端を披露して世界を絶望に染め上げようとしていた。


「やる気満々だな。やかましいけど」


「うるさいだけですよ。はぁ、鼓膜が強化されてて助かりましたが、大声大会なんて求めてません」


 しかし、巨人の真下でなんでもなく立っている2人からしたらただただ煩いだけの絶叫であった。


「行きます」


 白き鎧を纏って黒い大剣を構える少女が勢いよく跳躍する。

 起き上がったことで山以上ある巨人の上半身。ただの少女のジャンプ程度では届くことなどあり得ない筈だが……。


「『超人跳び』!」


 跳躍系のスキル『超人跳び』

 どこかの超人ヒーローの如く空高く跳ねて飛ぶことが出来る。その者の『筋力』か『素早さ』もしくは『魔力』によって効果が増す。


「女の子が筋力超特化って色々複雑ですけど!」


 それでもスピードは普通くらいはあるが、装備している甲冑や大剣が影響して、彼女の筋力は超特化と言っていいほどアップしていた。


 さらに望んで得た訳ではないジョブ【勇者】の特殊効果によって筋力及び素早さ、さらにはスキル自体の効果も底上げされており、ここに来るまでに何度も練習したことも重なってその結果。


『グルォ!?』


「おや? 見下ろされるのは初めてですか?」


 何処ぞのスーパーヒーローにも匹敵するの大ジャンプによって、綺麗に輝く月をバックに驚愕する声と顔をする巨人を見下ろす姿勢で大剣を振り上げる。


「『撃光斬』!!」


 振り下ろされた大剣から巨大な光の斬撃が飛び出す。王道の斬撃系のスキル。無駄にデカかった巨人は避ける暇もなく左肩から下へ強烈な一撃を受けて痛そうに苦悶の叫びを漏らした。


「やはりスパンと斬れませんか」


 スキルによって足場のない上空で着地しながら巨人を観察。続けて攻撃しようか考えていると思わぬ攻撃で怯むかと思われた巨人が今度は仕掛ける。


『――!!』


「っ来ますか!」


 口を大きく開いて溜め込まれた炎と共に咆哮の一撃をお見舞いしようとすると。


 後ろの方で青い稲妻が走ったような気がした。


「させねぇよ? ちょっと大人しくしてもらうぜ」


 いつの間にか背後に移動して少女と同じように空中で立つ男は両手で左右の短剣を振るった。


「『ペネトレイト』『ペイン・アサシン』」


 加えて貫通系と痛覚増大のスキルも加える。少女ほどの攻撃力はないが、彼の攻撃は貫通するように内部を刺激する。内部を破壊していくので、こっちの方がエグくて激痛ダメージは大きい。


『グルアァアアアアアッ!?』


「まだまだぁぁぁ!」


 攻撃の手を止めない。連続で斬撃を浴びせていくと呼応するように青い電撃が彼の体を巡らせる。


 派生属性【雷電】による『ライトニング・ラッシュ』。

 増幅効果、反射速度、連続攻撃で【雷電】の効果が増すスキル。


「オオオオオオオオオオオッ!!」


 雷によって反射速度が上がり次第に攻撃速度も速くなる。

 そうして何度も何度も攻撃を当てていくと両方の短剣が光出して徐々に光が大きくなっていく。


「よし! 必要魔力マナ、チャージ完了だ!」


 攻撃を当てる度に魔力がチャージされる。別に魔法使いのジョブでもないので、総合的に有能な妹より体内の魔力量が少ないが、武器も魔力を込める構造になっている。


「この短剣じゃ大して斬れないかもしれないが、体内に直接電撃を叩き込まれたらどうなるよ?」


 ラッシュの勢いのまま最後の両方の短剣で巨人に突き刺した。山に向かってナイフを刺すようなものなので、スキルを使っても致命傷にはならないが、チャージしてある【雷電】の電撃は別である。


「『ボルトチャージ』!!」


『グルァアアアアアアアア!?』


 突き刺した両方の短剣から巨人の体内へ青い電撃が送り込まれる。

 流石の大山の巨人でも体内からの電気ショックは経験はないのだろう。大口を開けて絶叫して倒れ込んだ。


「ほら、動きを封じたぞ。ユキ、フィニッシュだ」


「容赦ないですね兄さん。ですが了解です、後はお任せを」


 そして無様に倒れている巨人を相手に遠慮する妹でもなかった。

 跳躍スキルで空中で移動をしながら巨人の真上で大剣を構えた。



「ふふっ、今度のはデカいですよ? ――【ダークネス・カリバー】起動」


『グ、グォ!?』



 ユキの剣は勇者の剣であり

 そう、普通だったのは過去の話。陰から程遠いジョブにされた腹いせにユキ自身によって魔改造を施された哀れな聖剣。……実は自我があり不良となった自分の姿に号泣、真の使い手であった筈の兄がよく慰められていた。



────────────────

勢い書いたらなんかギャグパートに見えた。

ちなみにスキルや魔法は2人がジョブを選んだ際に事前にいくつか取得していた。

つまりエグいスキルばかり兄が使うことになり、王道ばかりのスキルを暗躍して弄りたかった妹が使うハメになってしまった。


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