転生した兄妹は事前に特典を選ぶが神のドジで逆になった。(試作品)

ルド

前編

『グルル……』


 全身から炎を纏って山とも思えるほどの【真紅の巨人】はいずれこの世界を滅ぼす存在、【炎獄の魔王】と呼ばれる怪物の一体であった。


 何百年も昔、勇者や聖女といった伝説のパーティーの死闘で倒せないまでもどうにか封印に成功することができた災害であったが、それはただの時間稼ぎに過ぎなかった。


 眠るように魔王は勇者たちに付けられた傷をただ癒しているだけ。

 自身を囲うように張られている光の結界などその気になれば破れるが、この世界などいつでも滅ぼせる脆き世界にすぎない。


 より強大なチカラをなって復活すれば、捕食の対象である人類の絶望もそれだけ大きい。

 絶望こそ魔王にとっての美味。今のように面倒な準備こそあるが、それでもやめられないほど欲している食事の仕方だ。


 だが、それももう間も無く終わる。魔王にとっての退屈な時間がようやく終わる。


 あの頃の勇者たちも今はいない。より強くなって完全復活する自分を止めれる存在など最早現れはしない。


 その筈だった。


「へぇ〜こんなところに妙にデカい建造物みたいのがあると思って入ってみれば、中々面白いのがいるじゃねぇか?」


 その男は突然姿を見せた。

 黒髪の戦士のようだが、動き易そうな黒いフードの軽装備。両腰に形は一緒だが赤と青の短剣を身に付けているだけで、鎧どころか盾すら身に付けていなかった。


「風の向くままに気の向くままな旅だから街の場所も分かんねぇしすっかり道に迷ってたけど、やっぱり異世界ならこうじゃないと面白くねぇよな?」


 張られている強力な結界をまるですり抜けるように壊さず中に入って来ると、見下ろしている巨大な紅き怪物こと【魔王】を見上げて子供のように楽しげな笑みを浮かべた。


「お前、結構強うそうだな? なんか燃えているし腕試しの相手にはちょうど良さそうだ」


『グルルルルルッ』


 威嚇するように喉を鳴らす怪物。

 何者かは知らないが、激しく不愉快な笑み、姿勢、喋り方に久々の退屈しのぎの挑戦者だと言うのに魔王は妙に苛立ち早々に排除しようと燃える拳を振り……。


「おいおい、いきなりかよ」


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 男の前に別の影が割り込んだように見えた。


 ガキンッ!!と下ろした自身の拳が何かによって弾かれてしまう。城すら容易く潰せれるくらい大きい自身の巨大な拳が……弾かれただけでなく、微かに亀裂が出来ていた。


「サンキューユキ、避けると被害が酷そうだから助かったぜ」


「ちょっとしか斬れませんでした。ですが修業にちょうど良いですね。これだけの巨体なら多少本気で斬り込んでも問題なさそうです」


「流石俺が選んだ装備とスキルだよな。はぁ、あの神ジジィがドジらなきゃ俺が使ってた筈なのに」


「そうは言いますが兄さん。私だって本当はそっちの装備で冒険したかったんですよ? それなのに固有装備だからって持っても思うように使えないですし」


 予想外の重い衝撃に狼狽えるとまた新たな侵入者が。コイツの仕業である。


 今度現れたのは明らかに自分の背丈には合っていない黒い大剣を背負っている小柄で黒髪の少女。体の部分部分に白い甲冑を身に付けて動き易い感じにしており、被っている兜の面の部分を出して顔は見えるようにしていた。


「しかし、お前のワンパンで倒れない奴って珍しいよな? というか傷が浅い奴なんて初めてじゃないか?」


「確かに、今までも強そうなモンスターは散々見てきましたが、ここまで大きくて硬いのは初めてですね」


「何より存在感が全然違うな。この結界みたいな建造物といいボスクラスって思っても良いかもしれない」


 真っ先に気になったのは少女の身長の倍以上はありそうな大剣。自身の攻撃を力任せに弾いたのなら普通は砕けてもおかしくないが、巨人が見るその大剣から禍々しい気配が漂っており、どう見ても普通の武器ではなかった。


「兄さん! 斬りごたえがありそうだから私から行くけど良いですよね!?」


「好きにしろ。神ジジィの所為でお前の方が攻撃に特化してんだ。こっちはお前のサポートをしつつ……」


 両腰に差してある色が異なる短剣を引き抜いて構えると全身から青い雷が迸る。


「このデカブツを削りまくって経験値にしてやるぜ!」


『グルアアアアアアッッ!!』


 その宣言が開戦の合図となった。

 それは命知らずか、それともただの馬鹿か。まともとは思えない兄妹で2人の侵入者に対し、【炎獄の巨人】は自身を縛っている封印と周りの結界を強引に破壊。言葉をしっかり理解せずとも舐めている事は明らかだと不満を爆発させた。


『グルアァァァァッ!』


 自身を不快にさせて苛立たせた不届者の2体のアリの始末する為、閉じ籠っていた檻から出ることにした。




──────────────────


新作スタートです。

別作品で頭抱えているのでちょっと気晴らしに始めました。

他にも考えてたのですが、思い付いたのでちょっと試したくなりました。どこまで出来るか不明ですが、今度もよろしくお願いします。


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