第2話 たった一つの一輪の花


どれくらい歩いただろうか。

「番犬」に言われるがまま

地平線の果てはるか彼方へ

ずっとずっと歩き続けて来た。

体力にはかなり自信がある方だった。

だが、この異常な暑さと照り返す貪るような

温風に体力はじりじりと奪われていった。

俺達「奴隷」が訓練されて来た施設は

年中気温が低く暑さ体制が無い事も相まって

いつの間にか気を失ってしまっていた。


ーーーーきてーーー

微かに声がする。

ふと暑さの中目を開けると

「ニンゲン」らしき存在が目の前に座り込んで居た

「お、きた、ね」

「よ、かった」

姿は純白な長髪でかなり小柄で痩せ型だった。

俺達とは身体的特徴が真逆で

その細身の体の上にはギリギリ肌を隠せる

麻布が着用されているだけだった。

「ーーーお前は何者だ?」

「わ、から、ない」

「た、だたすけた、かっ、たか、ら」

その声は透き通っていたが言葉は片言で

聞き取れないレベルだった。

「…お前は新世界を知っているか?」

「ーーー?」

何も知らない様子で首を傾げる。

俺ははぁ…とどっと溜息を付いた

仲間とも別れ何も知らない土地に

1人で取り残された挙句

こんなチビと行動するだなんて

今までの俺では考えられない。

「ーーーきて」

「?」

チビは俺を引っぱり何処かに連れて行く

思えば凄い体格差だ。

俺の身長は190はある

一方でこのチビは良くて150センチ行けばいい方

だった。

「…くそ…」

恥ずかしさにも似た感情が湧き上がり

目を伏せつつ

チビに引っ張られながらチビについて行った。

「…着いたよ…」

「!」

ふと目を上げた瞬間

目の前には一面の花畑が拡がっていた。

この花畑は恐ろしいくらい真紅で

人を食べた跡の様だった。

この花畑の真ん中には

湖がありチビは湖に向かって

一目散に走り出して行った。

「きゃははは!つめ、たいよ、!」

見た事のない表情。

これが嬉しいと言う感情なのか。

とても新鮮な気持ちでチビに向かって走り出す。

「…まって! 」

「…?何だよ」

チビは恐る恐る湖の陸地にしゃがみこみ

俺も同時にしゃがみ込んだ。

「…!…!」

俺はとてつもなく驚いた。

何故かと言うと

その花畑の中である筈のない

白い花が1輪だけ咲いて居たからだ。

「…これはどういう事だ?」

「…この花畑、は、ひと、をた、べ、るの…」

「え?」

チビはゆっくりか細い声で話し出す

「…わ、たしの、お、と、おさん

と、お、か、あさ、ん、

このは、な、た、ちに食べられたの」

「…でもた、べられ、ること、はい、きる

上で、ひつ、よう、だ、から、」

「…きょ、う、は、みず、を、だし、て

くれた、…だか、らあな、た、を食べさせる、

ば、」

一瞬ドキッとした…そして良くよく地面を見て

見ると人の残骸らしき物がそこら中に転がっていたー。

「だ、か、らあなたの、ち、から、をかして、ほ、しいの。…」

心臓の鼓動が高鳴る。

これから、この世界は、一体なんなんだ。

俺はどうなってしまうんだろう。

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ある地平線の彼方で 角谷カクカキ @kakutani_kakukaku

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