ある地平線の彼方で

角谷カクカキ

第1話

「ウォーリア」

俺達戦士はこう民衆から呼ばれていた。

常に戦闘用に強化され

ある日は雨の中ある日は雪の中

ある日は嵐の中

悴む掌も全て何も疑う余地も無く

ただ日々訓練に明け暮れて居た。


「119…!120…、!はぁ…はぁ…」

「おいおい、まだ腹筋終わってないのかよ

それでもウォーリアになりたいのか?」

「…分からない…なぁ…お前は疑問に思わないのか…?」

「は?」

「だって俺達は生まれた時からこの地上で

毎日訓練に明け暮れてる。

でもその理由は一切聞かされて居ない。」

「そりゃそうだけど…」

「可笑しいと思わないのかよ!

こんな毎日毎日朝から晩まで汚いドブ小屋で

食事も味のしないスープと

訓練ばかりしてて!」

「…でもそれが俺達の居る理由だから…」


そして𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 その夜奴は変死を遂げていた。

口の中には汚らしい汚物が詰め込まれている

そして手や腰はありえない方向にひしゃげて居た

これは、確実に人為的な殺人だ…

でもこの異常さに誰も違和感を持つ者は

1人も居ない。

何故ならば違和感を唱えた者から順番に

何者かから殺害されていくからだ。


俺達は特に死と言う物に関して非常に身近であり

肉体を手放した天使だと仲間内の中では

殺害された者が天上人だと崇められていた。

「あーあ…遂に105番死んじゃったよ…」

「まぁ、あれだけおかしな事言っていれば

天上人にされても可笑しくは無いよな。」


俺達には名前は無い。

と言うのも生まれた時から常に似た様な

個体識別番号が振り分けられていて

容姿も常に均衡になるように訓練されるので

番号でお互いを認識するのが常だった。

それでも俺達は常にお互いを励まし合い

協力関係を築きながら毎日を暮らしていた。


そんなとある日「番犬」がやって来た。

その番犬は定期的に俺達の寮にやって来る。

その「番犬」は俺達の中からランダムに

特待生を選出し何処かに連れて行く。

この寮舎には100名程が生活しているのだが

毎月1~2名程「番犬」に選択されて

「出荷されてもう二度と戻って来ない」


この特待生選出は基本的に全員にとっての

サプライズであり外の世界に出れる最後の

チャンスであった。


「今回の特待生は…111番…104番そして

…122番…以上だ。」


…?!嘘だろ…何で俺が選ばれたんだ?!

正直成績に関しては悪くは無かった。

ただ、上位10人レベルに入るかと言われれば

全くそんな事は無く寧ろ圏外だった。

122番…

そんな名前の重みを感じながら

太い手錠を括り付けられ

前にずっしりずっしり進んでいく。


前は見えない…ただ「番犬」に着いていくので

精一杯だった…。


「着いたぞ」


もう朝方だろうか…眠くなりながら

か細くなった目をさする

すると今までに見た事の無い眩い閃光が

目に入って来た。

「熱!?」

俺は全身を焼かれるような痛みに耐えきれず

暫くうつ伏せになってしまっていた


暫く、いや一瞬の出来事だった気がする。

暫くすると番犬にバチン!と頬を叩かれ

目を覚ました


「お前は合格だ」


「え?」


「後ろを見てみろ」


そう番犬に言われ後ろを振り返る。

するとさっきまで存在していた111番と 104番は

この光に耐えきれず目も当てられない

原型を留めてないぺしゃんこに潰れて居た。


「ひっ!」


思わず後退してしまい番犬に支えられる。


「…俺もこうなるのか?」

「いいや、お前はこうはならない。

何故ならこの新しい世界の「適合種」だからだ。」

「適合種?」

「無論その通り。

この世界は分断されて居るんだよ。」

「?何が何だか…」

「お前達が受けて来た訓練。

これらはこの地平線を越えた先の

「新世界」では無意味になる」

「お前は品種改良を知っているか?」

「…1度授業で聞いた事があります…」

「品種改良とは既存の種から突然変異を

起こして創る物だがお前らの品種改良は

そう上手くいかなかった」

「特に能力値は既存の能力にプラスして開花される物であり言ってしまえば「適合種」の

血が流れていない者は幾ら訓練しても無駄なんだ」

「更に能力はこの訓練を積む上でその中でしか

開花しないし誰もが花開くとは限らない。」

「お前はその適合種だったんだよ。」

「…じゃあ!どうして残りの2人は消えてしまったんだよ!」

「こいつらは適合しなかった

実験と実際は違う事がある。

ただそれだけだよ。」

「…くっ…」


「120番…お前の指名は 」

「この地平線の彼方で自由になりなさい」


「自由…?」


「そうだ。今までお前らは自由ではなく

常に拘束されて居た」

「だがお前はその束縛から離れられる

適合種なんだよ」


「俺が特別…?」


「いいや、特別では無い。

寧ろお前の能力はこの新世界の人から見たら

ごく一般的な物だ。」


「どういう事だ…?」


「おっと…そろそろ時間みたいだな…

番犬はこの世界の簡易的な説明を終えると

自然と消える様になるんだよ」


「そんな…俺はこれから独りなのか?」


「いいや、これから先ここの道を真っ直ぐ進め」

「その先に必ず答えが出るだろう。」


そこから先は…と言わんばかりに一瞬で

番犬は消えて無くなってしまった。


これから俺はどうなるのか。


奴隷として、122番として育てられた俺が

自由を求め次の新世界へ挑戦して行こうと

1歩大地を踏みしめた。


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