第33話「告発の檻、暴かれる仮面」
ヴェルサイユ宮殿・翌朝
宮廷は、昨夜の騒動をまるで“何もなかったかのように”装っていた。
だが、各所には緊張が走っていた。
廊下には兵の数が増え、侍女たちの囁きは止まず、陰謀派の貴族たちは露骨に警戒の目を光らせていた。
「王妃暗殺未遂……それが“公”になるのも時間の問題だな」
シャレットは、王宮内の一室に集った三銃士とマリーを見渡しながら言った。
その傍らには、サンジェルマン伯爵の姿もあったが、あくまで“裏方”のように沈黙を守っている。
「侯爵派の思惑は狂った。だが、奴らはこのまま引き下がるような連中ではない」
ピシグリューが唇を歪めた。
「逆に……“先手”を打ちましょう」
そう告げたのは、マリー・アントワネットだった。
彼女の表情に、昨夜までの不安の色はなかった。むしろ、静かな覚悟に満ちていた。
「王妃暗殺を謀った者たちを、宮廷法廷にて“正式に告発”します。侯爵派の罪状を、白日のもとに晒すのです」
「だが、証拠が……」とド・モードが慎重に口を挟む。
「あるわ。シャレットが手に入れた告発草案。それに、ピシグリューが偽の命令書を餌にして動かした“密告者”が今、証言の準備を進めている」
マリーが視線を向けると、扉の外に立っていたのは、かつて侯爵家に仕えていた筆記官だった。
顔色は青ざめていたが、真実を語る覚悟は宿っていた。
「私は……王妃の命を狙う偽造文書を、セヴラン殿から直接受け取りました……」
「ご苦労だったな」
サンジェルマンが初めて口を開き、男に一冊の書簡束を手渡した。
「これは“本物”の王妃発行命令書と、偽造書簡の照合記録だ。…王室印章の偽造を確証するには、これで十分だろう」
その言葉に、三銃士の誰もがわずかに息を呑む。
これが、サンジェルマン伯爵の“手”——。
いつ、どこで用意したものなのかすら分からない。
「告発の場は、二日後の“王政庁の臨時評議”にて設ける。王妃の名のもとに、正義を問うのです」
マリーは、静かに頷いた。
その瞳の奥に、恐れではなく“決意”が灯っていた。
同刻、ディオニュス侯爵邸。
「……奴ら、ついに動き出したか」
侯爵は、屋敷の奥で密偵からの報告を聞いていた。
「王妃派、あの三銃士の動きも一枚岩のようです。サンジェルマンも裏にいるようで……」
「くくく……だが、王妃は甘い。正義など、裁判など……人の心ひとつでねじ伏せられるものよ」
侯爵は静かに立ち上がった。
「こちらも“最終手段”を講じよう。あの娘に、どれだけの覚悟があるか試してやる」
部屋の奥、封印された木箱を開けると、そこには“血判”で記されたもう一つの密書があった。
それは、“偽の裏切り者”を用意し、王妃側の失墜を狙う最後の罠だった。
ヴェルサイユの空は鈍く曇っていた。
嵐は、すぐそこに迫っている。
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