第18話 迫る影
救出劇の余韻が冷めやらぬまま、夜明けが近づいていた。
デムーランは疲れ切った様子で椅子に腰を下ろし、息を整えながらワインの入ったグラスを傾ける。
「……さて、私はこの先どうすればいい?」
彼はリュシアンを見つめた。
「お前が自由を取り戻した以上、あとはどうするかはお前次第だ」
リュシアンが肩をすくめると、デムーランは苦笑した。
「そう簡単に言うな。私はもう、ロベスピエールの元には戻れない」
彼の目には迷いが浮かんでいた。
「マクシミリアンはもう、昔の彼ではない……だが、だからといって私は彼と敵対するつもりはないんだ」
デムーランは拳を握りしめる。
「政局は、もはや後戻りできない段階にある。もし私が今表に出れば、再び捕まるだけだろう」
「その可能性は高いな」
リュシアンはあっさりと認めた。
「だが、お前が生きていることを知れば、マクシミリアンも考えを変えるかもしれない」
「……変わるか?」
デムーランは自嘲気味に笑った。
「もし彼が私を友と呼ぶのなら、そもそも疑わなかったはずだ」
彼はグラスを置き、ゆっくりと立ち上がる。
「私は少し考える時間が欲しい」
「なら、しばらくここにいるといい」
サンジェルマン伯爵が微笑みながら口を挟んだ。
「ここは私の知人が所有する屋敷でね。すぐには見つからないだろう」
「……感謝する」
デムーランは小さく息をついた。
ロベスピエールのもと・ジャコバン派の集会場
「……まだ見つからないのか?」
ロベスピエールは低い声で尋ねた。
「はい。しかし、デムーランが逃げ延びたのは確実です」
サン=ジュストが答える。
「それも、サンジェルマン伯爵の手引きによるものと見て間違いない」
「……彼の狙いは何だ?」
ロベスピエールは鋭い視線を向けた。
「貴族でありながら、革命に干渉しようとするとはな……」
「伯爵の動きは掴めていませんが、既に我々の監視網をすり抜けています」
「放っておくわけにはいかないな」
ロベスピエールは静かに立ち上がる。
「サンジェルマン伯爵が何を企んでいるのか、確かめる必要がある」
「では、彼の動向を探りますか?」
「いや……それよりも、彼の背後にいる者を洗い出せ」
ロベスピエールの目が冷たく光る。
「変革の邪魔をする者は、誰であろうと排除する」
パリの街角
リュシアンはサンジェルマン伯爵と共に屋敷の外に出た。
「伯爵、あなたの目的は何だ?」
「目的?」
伯爵は微笑を浮かべたまま、夜空を見上げる。
「私はただ、興味深い人々がどこへ向かうのかを見届けたいだけですよ」
「それだけか?」
リュシアンは疑いの目を向ける。
「もちろん、それだけではありません」
伯爵は歩みを止め、リュシアンの目をじっと見た。
「あなたもいずれ、気づく時が来るでしょう。歴史の流れの中で、誰が主役となり、誰が舞台を去るのか……」
「……?」
リュシアンは伯爵の言葉の意味を測りかねた。
「今はまだ、幕が開いたばかりです」
伯爵は微笑を深めた。
「さあ、次の一手はどう打ちますか?」
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