カバードワゴン攻防戦

葉山 宗次郎

極光 SR-91 オーロラの墜落

「こいつはもうだめだな」


 極光、SR91オーロラに乗った佐々木大尉は、機体の警報音、そしてエンジンの値。

 なにより、体を大きく揺さぶる機体の振動から、愛機が限界であることを知った。

 むしろ損害を受けて、これほど飛べたことが驚きだ。

 SR71を生み出したスカンクワークスが、日本の協力の下に生み出した後継機。

 極秘に送り出された最高速度マッハ六を出す戦略偵察機<オーロラ>。

 その日本配備機、通称<極光>と呼ばれる機体が佐々木大尉の搭乗機だ。

 極超音速飛行のために、あらゆる余計な装備を削ぎ落とした機体。

 結果、耐久性や冗長性は皆無に等しく、マッハ6の熱と圧力に耐えられれば良し、という設計だった。


SR91について

https://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16818622172145697137


 被弾して、なお飛べているのは奇跡だ。

 しかし、その奇跡もここで終わりだ。

 佐々木大尉は、データディスクを取り出してパイロットスーツの内側へ入れると、緊急脱出した。

 愛機と十分に離れた後、腕のリモートスイッチで自爆装置を作動させ、愛機を最後の任務へ向かわせた。

 内蔵された爆薬が炸裂し、西側最高の最先端技術と機密情報の塊であるSR91をバラバラにした。

 敵国への情報漏洩という損害を最小限にする任務を達成する。

 佐々木大尉は着水し、ボートを展開させたが、救出の見込みは少なかった。

 覚悟はしているが、情報を持ち帰れないのが悔やまれる。


「全く、ままならない人生だ」


 佐々木大尉については

https://kakuyomu.jp/works/16818622170813704645/episodes/16818622170813729201


 だが、直後に近くの水面が盛り上がった。

 サメかと思い、持たされていた『自衛用』の拳銃を用意する。

 だが、サメより大きかった。

 鯨でもない。

 それは鉄の鯨。

 潜水艦だった。

 それでも佐々木大尉は、警戒を解かない。

 敵の潜水艦の可能性もある。


「大丈夫か!」


 セイル、船体から突き出た部分に上がった士官が、日本語で尋ねてきた。

 それでも佐々木は警戒している。

 北の潜水艦である可能性がある。


「貴官は?」


「海上自衛隊潜水艦隊所属<蒼龍>だ」


 嘘を吐いている様子はなかった。

 それに艦尾を見て、北日本潜水艦にはないX翼。

 日本のシーウルフ級潜水艦<蒼龍>級しか装備していない尾翼であることが味方潜水艦である証明となった。


「貴官の所属は?」


「航空自衛隊汎用航空団第八一五飛行隊だ」


 味方と分かって、佐々木大尉は表向きの飛行隊名を名乗る。

 だが、それが忍者飛行隊であることは半ば公然の秘密だ。


「直ちに救助する」


 すぐに佐々木大尉は、<蒼龍>の艦内に収容される。


「ハッチ閉鎖確認!」


「急速潜行!」


 だが、<蒼龍>はすぐさま潜行した。


「艦長に会わせてくれ、重大な情報がある」


 傾斜する通路で踏ん張りながら佐々木は乗員に詰め寄る。


「それどころではありません」


 救助の指揮を執った海曹長が、佐々木を止める。


「爆発音を聞いた敵潜水艦が接近しています。警戒態勢です」


「日本の勝敗を左右する情報なんだ。なんとしても送信したい」


「だめです。作戦行動中ですし、艦長は多忙で会うことは出来ません」


「海曹長、ご苦労」


 そのとき、白い半袖の第二種軍装を着た士官が佐々木が収容された区画に入ってきた。

 乗員達は一斉に敬礼する。


「本艦<蒼龍>へ、ようこそ佐々木大尉。艦長の速水だ」


 速水が言うと、佐々木は敬礼した。

 手早く答礼すると、速水は丁寧な口調で話す。


「優秀な上、幸運なパイロットである君がそれほど取り乱すということは、余程重大な情報のようだな」


 実際、佐々木は幸運だった。

 爆発音を聞いて浮上。

 潜望鏡を上げたら、目の前に佐々木大尉のパラシュートが着水する瞬間を速水は目撃。

 素早く<蒼龍>を佐々木の元へ航行させ、近くで浮上させたのだ。


「何が起きた」


 冷静な速水は、佐々木の所属が忍者飛行隊、情報本部所属へ選抜されたエリートである優秀な情報要員であることに気がついており、尋ねた。


「戦局を左右する情報です。直ちに日本に送信を」


「そのようだな。だが、残念なことに、現在本艦は敵潜水艦に追われていて、通信可能深度まで浮上できない」


「艦長! 敵アクラ級、急速接近!」


「艦長了解。佐々木大尉、付いてきたまえ」


 速水は、佐々木を連れて発令所、潜水艦の頭脳にあたる区画に連れてきた。

 ここに潜水艦の内外の情報が集まる。


「アクラ級、まっすぐこちらに来ます。予想通りです」


 救助直後に潜行し、周囲を確認すると、予想通り爆発音に引き寄せられた敵潜水艦が接近していた。

 しかも、追いかけてきているのは新生ソ連の最新鋭艦アクラ級だ。

 いくら最強とされる<蒼龍>でも攻撃を受けたらひとたまりもない。


「どんな情報だ?」


 速水は静かに尋ねた。


「機密に関わる。と言っても送信して貰えないだろうから言いましょう。潜水艦乗りは口が堅いと言いますし」


 速水と佐々木はにやりと笑った。

 潜水艦は極秘の諜報任務を行うこともある。

 そもそも潜水艦は機密の塊であり、戦略偵察機と共通する点だ。

 速水も何度か機密作戦、敵国領海内での偵察活動を経験しており、口を堅くする必要を理解している。

 無言で頷き、佐々木は信頼して話した。


「ご承知の通り、自分は戦略偵察機のパイロットで五時間ほど前、嘉手納基地よりカムチャッカのペトロハブロフスクへ向かって出撃しました」


 スパイ衛星はあるが、この戦争初期の新生ソ連による衛星破壊によりほとんどが破壊された。

 追加で偵察衛星をアメリカは打ち上げたが、北太平洋は霧や雲が多く、宇宙からでは敵地を撮影できない。

 そのためSR71をはじめとする戦略偵察機が大活躍していた。

 佐々木大尉も連日出撃している。


「今日も通常の偵察任務でしたが、今回は通信が途絶したアッツ島の状況確認の任務が追加で入りました。基地の通信機の故障かと思いましたが、島の上空に行くと新生ソ連の連中が島を占領していました」


 速水の眉がピクリと動いた。

 佐々木は話しを続けた。


「島は様変わりし、滑走路が整備され広大な駐機場があり、そこに爆撃機の大群が集結していました」


 その話しに周りの乗員は息をのんだ。

 ただ一人、速水は静かに聞いていた。いや、頭の中で情報を高速で分析していた。

 その間も佐々木大尉は説明を続ける。


「慌てて、画像データをとり反転しようとしたら対空ミサイルを受けて、このざまです」


 佐々木大尉は肩をすくめた。


「連中の具体的な作戦は分かりません。ですが、何をしようとしているか、は推測出来ます」


「カバードワゴンへの攻撃だな」


「同意します」

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