妖精のいたずらカフェ

西川笑里

第1話

 ある小さな町のはずれに、「妖精のいたずらカフェ」という奇妙な名前の店がある。

「お客さま、いらっしゃいませ!」

 ドアを開けると、小柄な店主が笑顔で迎えてくれた。彼の髪はふわふわの銀色で、目はいたずらっぽく光っている。

 店の中は不思議な雰囲気だった。テーブルには小さなキラキラ光る粉が舞い、壁には蝶の羽のような装飾が揺れている。メニューを見ると、どれもおかしな名前ばかりだ。


「おすすめは、"妖精のいたずらパフェ" です」

 店主がウインクする。興味をひかれて注文すると、すぐに運ばれてきた。

 見た目は普通のパフェだ。けれど、一口食べた瞬間、驚いた。口の中でパチパチと弾ける音がし、冷たいはずのアイスがじんわりと温かくなる。まるで、妖精がいたずらしているみたいだ。


「おや、気に入ったみたいですね?」

「これは……いったいどういう仕掛けなんですか?」

「企業秘密ですよ」

 店主はくすくす笑いながら、小さな瓶を取り出した。瓶の中には細かな粉が入っている。

「これは"妖精の砂糖"。妖精たちが夜中に集めた甘い夢の欠片です」

「……冗談ですよね?」

 店主は答えず、ただにっこりと笑うだけだった。


 そのとき、不意にテーブルの上のスプーンがカタカタと揺れだした。次の瞬間、ふわっと宙に浮き、くるくると回転しながらパフェに突き刺さった。

「えっ⁉」

「妖精たちは、いたずら好きなんですよ」

 店主はさも当然のように言う。


 ふと見ると、カフェの隅に小さな光がいくつも瞬いていた。よく目を凝らすと、それは手のひらほどの小さな妖精たちだった。彼らはちっちゃな羽をぱたぱたとさせながら、いたずらっぽい笑みを浮かべている。


「このカフェ、もしかして本当に妖精が……?」

「さあ、それはどうでしょう?」

 店主はおどけたように肩をすくめる。


 パフェを食べ終わると、なんだか体がふわふわと軽くなった気がした。会計を済ませて店を出ると、風がそっと頬をなでる。

 ふと振り返ると、カフェの看板がきらりと光った。さっきまで「妖精のいたずらカフェ」と書かれていたはずの文字が、一瞬だけ「妖精たちのひみつ基地」に変わったような気がした。


「まさかね……」

 でも、不思議と心が躍るような気分だった。


 妖精たちは、今日もカフェの奥で新しいいたずらを考えているのかもしれない。

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