体育祭を明日に控えて、大ピンチな僕の話!

みこと。

全一話

 現実離れした状況に、どう対応したらよいか。


 僕は困っていた。


 僕の右前には、"砂の妖精"を名乗る怪しい小人こびと。が、袋を背負いしている。

 そして左前には、その砂の妖精によって眠らされた意中の彼女・能勢のせ陽葵ひまりが、体操マットの上で横たわっていた。


 体育館倉庫の中で放課後のチャイムを聞きながら、途方に暮れる。


「どうぞ存分に、恩人おんじん様!」


(──頭痛い)


 悪びれず彼女を両手で示す妖精に、ため息がこぼれた。



 ことの経緯は、こうだ。


 運動場の隅で、コンクリートとして流し込まれたばかりの砂が、不自然に藻掻もがいていた。

 もしや子猫か何か、動物があやまって落ちちゃったのか?


 あわてた僕は、コンクリートを散らしてそれを救出し、絶句した。


 僕が助けた何か・・は、人でも生き物でもなかった。

 いや、生きてはいるけど……。


 "私は砂の妖精です"


 ほがらかに名乗った奇妙な小人に、僕は"これは夢だ"と思った。


 "助けていただいたお礼に、あなたの好きな人を眠らせましょう"


「は?」


 ここからが問題だった。


 妖精はどうやって知ったのか、僕が片思いしてる同級生・陽葵ひまりちゃんのもとへと走り、慌てて追いかけた僕の目の前で、彼女を狙い撃ちした。


 陽葵ひまりちゃんは委員長として、体育祭用のゼッケンを体育館に運び込んでいたところだったらしい。


 妖精が袋から出した砂を振りかけると、彼女は即座に倒れて眠り込んでしまったのだ。


「イタズラし放題です。恩人様」


 そう進めてきた妖精に、僕は言葉を失った。



 僕はまだ中学生だ。

 

 悪いけどイタズラなんて! ぐ、具体的に思いつかないし!

 こんなの間違いなく犯罪だし!

 

 それに僕はフェアに告白からだと思ってる!!


 ひとまず陽葵ひまりちゃんをマットに寝かせ、クラス分の散らばったゼッケンを拾い集めたけど。


 意識のない彼女を引きずって運んだ時は、柔らかな体温と香りに眩暈めまいがした。

 これ以上はダメだ。


 はっきり言わないと。


「妖精さん! 僕はこんな方法、望んでない。まずは"好きだ"って伝えなきゃ」


「固いですねぇ、恩人様。でも、そうですかぁ? じゃあ、そっち手伝いますよ」


「は?!」


 いうなり、妖精は消えた。


 本当に、夢だったみたいに。




 体育祭当日の借り物競争。


 僕が手にしたフダが「好きな人」といびつな文字で書かれてあったのは。

 さらにそれに砂がついていたのは。


(妖精のしわざだったんだろうか?)

 

 陽葵ひまりちゃんと手をつないでの帰り道、袋背負った小人を見た気がして、僕は首を振った。




 世の中は、不思議だらけだ──!!

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