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翌日、私は早速行動に移すことを考えた。
お酒をそんなに飲んだわけではないけれど、悪酔いというものをしたのだろうか、目覚めたときの嫌悪感だけは妙にはっきりしていた。頭痛なり腹痛なり、眩暈に似た感覚を覚えながら朝に起きた。
正直、昨日会話したことの大半については薄くなっていて、ぼやけるような不透明さがあるけれど、それでも心の中に刻まれていたことだけは鮮明に思い出すことができる。
それは、翔ちゃんとさっちんの結婚式。
「……うぅ」
目が覚めてすぐ、何とか思考を回そうと体を起こしたけれど、それでも三半規管がぶれているようで、起き上がった体勢を、再びそのまま横に戻してしまいたくなる。けれど、結婚式をやる段取りや決めなければいけないことが多くある今、少しの時間も無駄にすることはできない。
だから、無理をしてでも起き上がる。
周囲を見渡してみて、兄貴が既に仕事へと出かけていることを認識する。何かそれらしくヒントのようなことだったり、もしくは知見だったりを聞けたらよかったけれど、兄貴は結婚式に縁はなかったはずだし、仕事だというのならばその時間を奪うようなことはしたくない。結局、一人で、もしくはきょんちーや翔ちゃんと一緒に考えなければいけないことだな、と改めて思いながら、ともかく私は朝食をいただくことにした。
兄貴によって散らかされた衣服などを片付けたりしてみて、それからは簡易的な朝食を作る。作ると言っても、もともと用意してある食パンをトーストに放り入れて、マーガリンを冷蔵庫から取り出すことくらいしかないけれど。
「……シジミ汁飲みたい」
一人だとそんな独り言がついて回る。二日酔いは何度か経験はありはするものの、その気持ち悪さが拭えた試しは一度もない。慣れていたらそもそも酔わないだろ、っていう話でもあるような気がする。そんなことをぼんやり考えながら、真に考えなければいけないことへと意識を向ける。
はむっ、と少女漫画の主人公みたいに食パンを頬張りながら、適当に携帯のメモ帳なんかを開いてみる。頭の中で考えていても、それが整理されることはないから、一度考えたことをメモ帳に書き出して、それから順序良く考えていく方が効率がいい。
あまり使っていないメモ帳を開いて、まずは何を書くべきか。
私たちがやろうとしているのは結婚式。本来、結婚式であればウェディングプランナーみたいな、冠婚葬祭を執り行ってくれるような会社にお願いするのだろうけれど、翔ちゃんたちの場合はそうもいかない。私が、私たちが結婚式を執り行うのだ。まずはその知識をまず身につけなければいけないような気がする。
適当に動画サイトのアプリを開いたりして、結婚式、と検索してみる。そこで何か流れのようなものが分かれば、それだけでも情報としては有効活用できそう、……とは思ったものの、大抵上がっていた動画は、ケーキ入刀という共同作業をメインにピックアップしている動画であったり、有名人がその知名度を誇張するように、大規模なもので繰り広げる動画であったり、そんなものばかりだから、正直参考にはなりはしない。中にはメインのキスだけを集めたような気持ち悪い動画もあって、酩酊の苦しさも相まって、胃がむかつくような感覚がした。
……うーん。難しい。
こうなれば、実際に現場を見に行く、とかが一番手っ取り早いのかもしれないけれど、まずそのためには周囲の人には結婚をしてもらわなければいけない。流石に見も知らぬ人の結婚式を、そのまま覗きに行く、というのは非常識が過ぎるし、そんな大胆なことは私にはできそうにない。というか、する人なんてそもそもいないと思う。だから、身内で結婚しそうな人を考えては見るけれど。
「……あいつら、全員独身なんだよなぁ」
私含めて、全員彼氏がいないのだ。いや、中にはまだ恋愛を繰り広げているような人もいたはずだけれど、自然と連絡が途絶えてしまっているパターンがほとんどで、話しかけられる関係値にある人間はすべからく独身なのだ。
なんという悲しすぎる事実。
こうなると、誰かしらの結婚に参加したことのある人物に話を聞くでもいい。それこそ、兄貴ならばそういう人くらいは知っているかもしれないから、そこから話を聞けばいいのだが、肝心の兄貴は仕事に出かけてしまっている。電話をすることも選択肢のうちだが、どうせ夜には帰ってくるのだから、詳しい話はその時にでもすればいい。というか、日中に兄貴へと電話をかけても大半がつながらないのだ。
……ふむ、そうなれば考えられること。
結婚式をやるうえで、翔ちゃんはオリジナリティを求めているような様子だった。そのオリジナリティとやらを本人に聞いてもわからない、と我儘な感じではあるが、それはそれとしてオリジナリティ。
オリジナリティを求めるのであれば、そこはやはり私たちのライブ、ということになるのかもしれない。ぶっちゃけ、それ以上に思いつくものがなさすぎる。一度思いついた案だからこそ、逆にそれ以外の発想が見いだせない部分はあるのだけれど、とりあえずライブをする、ということは確定にしていいと思う。……予定として、あくまで、予定として。
メンバーのそれぞれに声をかけるのは申し訳ない気持ちがあるが、それでもやらなきゃいけないことだから必死に頼み込むしかない。あと、翔ちゃんには歌の練習をお願いしとかなきゃな。乗り気じゃないだろうけれど、これに関しては絶対にやってもらいたい。思い出になるし、楽しそうだし。
おっしゃ、と私は声に出しながら、確定しそうなことをひとつメモ帳に書き加えていく。そして、その次に考えるべきは……。
「……あっ、とりあえず今日バイト休むって連絡しなきゃな」
そんな、現実感しかない欠勤報告についてだった。
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