第二話

一人、いつもの様に本を読む。

顔をあげる。

でもそこには先輩は居ない。

本を読む。

また…顔をあげる。

しかし…誰も居ない。


そんな事を一週間続けた。


一人には慣れていたつもりだった。

別にまた前に戻るだけ。それだけのはずだった。


「先輩…。」


あの時感じた喪失感。孤独感。再び私を犯してくる。

しかも、あの時の比ではない。


私は…救われていたのだ。


あの人に。


怖い。


一人だ。


これからまた一人になるのか。


怖い。

怖い。

コワイ…


コワイ…コワイ…


コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ…



「おい、何やってんだ。帰るぞ。」


突然。声がした。


私に?


顔をあげる。

そこには見たことも無い男の子が立っている。


「…誰?」


私が問いかけるとその男の子は軽くため息を吐いた。


「何いってんだよ。寝ぼけてんのか?早く帰るぞ。遥乃。」


この人は何を言っているのだろう。そもそと何故私の名前を知っているの?


「…えっと、何で私の名前を…?」

「っとに寝ぼけやがって。またあれか?静香の夢でも見てたのか?まあいつも三人でここで過ごしてたしな。今はもう俺はたまにしかここに来ねぇし。だからいつも帰りは一緒に帰ってやってるだろ。」

「…三人?いつも…?」

「まあ残された二人で楽しくやろうや。ほら、準備してさっさと帰ろうぜ。」

「…うん。じゃあ準備するね。いつもごめんね。…………ミハル。」


ミハル?


不意に名前が出た。


私はこの人を知っている?


そう…知っている。


いつも先輩と三人でいたではないか。


いつも…この場所に。


先輩が卒業した日も…一緒に。



帰り道、ミハルはいつも先輩の事を話してくれる。


たまに図書室に来てはお菓子を食べながら本を読み終わる私を待つ。


放課後はいつも暗くなる前に私を迎えに来てくれる。


それが私の今の日常。


幸いにもミハルのお陰で卒業した後も先輩との距離を感じなくてすんでいる。


「ミハルは放課後以外は何をしているの?」

「ん?あぁ、まあフラフラしてるな。授業ってやつは退屈でな。」

「サボってるってこと?単位とか大丈夫なの?」

「単位?…あぁ、まあ何とかなるだろうよ。」

「ならいいのだけど。そんなに暇ならもっと図書室に来たら良いのに。」

「いや、それは一応止められているからな。」

「止められている?誰に?」


ミハルはハッと失言したような表情を浮かべた。

「いや、まあ…静香にな。」

「先輩に?何で?」

「まああいつにも何か考えがあるんだろうよ。俺にはわからねぇ。」


「あ、ミハル君じゃん。じゃあねー。」


校門付近で数人の女の子がミハルに声を掛ける。

ミハルは特に気にした様子もなく軽く返事をして通り過ぎる。


「結構モテるんだね。」


ちょっとからかってみる。


「モテる?なんだそりゃ。」


あんまり気にしてなさそうだ。つまらない。


スラッとした背丈に整った顔立ち。ちょっとワイルドな所も世間一般的にはミハルはイケメンだと思う。遊んでいてもおかしくはない。それなのにあまりそういう事には興味がないようだ。


「何してんだよ。早く帰るぞ。」

「あ、うん、今行く。」


先を行くミハルを小走りで追いかける。


「ちよっと何なのアイツ。」

「何かいつも一緒に帰ってるみたいだけど彼女?」

「いや違うでしょ。そんな感じじゃないし。」

「ちょっと調子乗ってない?うざっ。」


校門を出る際、横を通り抜けた会話。


バカバカしい。


「ん?どうした。」

「んーん、何でもない。」


そう、何でもないのだ。

私と彼女達は交わることもない。何を言われようが関係ない。私が流していればただの雑音。いちいち気にすることでもない。


「帰ろっか。」


そして私達は帰路につく。

この事がきっかけで、私の日常が変わることになるとは思ってもいなかった。



第二話


ミハル

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