題名は最後に分かります。【1】

零o

 私がこの部屋に引っ越してきて、どれほど経っただろう。一ヵ月ほどだろうか。その時間は短いように見えるが、私にとっては一生そのものといえるほど長いものであった。


 「やぁ、おはよう」


 私が暮らしている部屋の天井から声が聞こえる。この不可解な現象にも、もう慣れてしまった。今では特別な存在だ。


 「うん、おはよう。マキ」


 彼女、または彼は自分の名前はマキだと言った。初めて声が聞こえたときにそう教えてくれた。


 「そろそろ夏が終わって、秋になるね」


 「そうだね、マキ。」


 今日も私のこの不可解な日常が始まる。

 

 日常と言ってもとても退屈なもので、ご飯を食べて、掃除をして、マキと話して寝るだけである。


 それでもマキと話す時間はいつまで経っても楽しい。


 私の知らない外の世界を教えてくれる。


 私の知識はすべてマキが教えてくれたものだ。


 そんなマキに私は恋をしてしまった。姿もみえない、声でしか会ったことのない不可解な存在に。


 「外の世界は気温が下がってきて過ごしやすくなってきたんだ、そろそろ会えるかもね」


 会話の中でマキが言い放った。その言葉に私は心が躍り、居ても立っても居られなくなる。


 「本当!?うれしい!早く会いたいよ、マキ!」


 「わかった、じゃあ向かうね」


 その妙な答え方に私は少し不気味になるが、マキと会えると思うとそんな事はすぐにどうでもよくなった。


 「はぁ、はぁ…」


 「マキ?大丈夫?」


 「うん、大丈夫だよ、平気、平気!」


 マキの声は一見大丈夫のように聞こえたが私には無理に取り繕っている事が分かった。

 そういえば、最近のマキは少し元気がなかったかもしれない。


 すこし寒気がする


 思い返せばマキの声が少しずつ、本当に少しずつ元気がなくなっていたかもしれない。

 初めて会った時の挨拶と今朝の挨拶を比べる。


 やっぱり何かおかしい。


 ぞっと寒気がした。


 「ねぇ、マ――」


 「着いたよ」


 「…え?」


 私の声を遮って、マキが言った。


 "着いた"その言葉の意味を私は本能で理解した。


 全て、思い出した。


 私は玄関に向かい、ドアノブに手をかけた。


 「マキ、今までありがとう。私行くね。」


 「行ってらっしゃい」


 ガチャ


 玄関を開けるとそこには水中が広がっていた。




 題名「カマキリとハリガネムシの恋」

 

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題名は最後に分かります。【1】 零o @notseecat

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