妖精が出現する家

三国洋田

妖精出現

 ポニーテールみたいな髪型。

 渋い顔の中年男性。

 無精ひげを生やしている。

 目を閉じている。

 色黒の肌。

 がっしりとした体格。

 カーキ色の和服を着用。


 朝起きると、このような姿をした武士みたいな人が、ベッドの近くに正座していた。


 武士みたいな人の右側には、日本刀のようなものが置いてある。


 な、なんだあいつは!?


 泥棒か!?


 いや、泥棒なら、座っている必要なんてないよな。

 るものって、逃げるはずだ。


 なら、なんなんだ!?


 変質者なのだろうか!?


 そのくらいしか考えられないな!



 俺はどうしたら良いんだ!?


 警察を呼べば良いのだろうか!?


 いや、それはあいつを刺激してしまう可能性があるな。


 あの刀で斬りかかってくるかもしれない。


 やめておこう。



 逃げるのは無理そうだな。


 ベッドから下りただけで気付かれそうだ。



 では、どうしようか?


 とりあえず、刺激しないように言葉を選びながら、話しかけてみようか?


 それしかないか。


 よし、やってみよう。


「あの~、すみません」


「ん? 起きたんでちゅか~?」


 武士みたいな人が、かなり高い声でそう言った。


 でちゅか!?

 なんでそんなしゃべり方なんだよ!?


 全然似合わねぇぞ!!


 まあ、そんなのどうでもいいか!!


「え、ええ、おはようございます……」


「おはようでちゅ~」



「そこで何をしているんですか?」


「座っているでちゅ~」


 そんなの見りゃ分かるっての!?


「あ、いえ、そうじゃなくてですね。なんでこの部屋にいるのかということなんですけど……」


「なんか居心地が良さそうだったからでちゅね~。実際に、とても居心地が良いでちゅよ~」


「そ、そうですか……」


 なんじゃそりゃぁっ!?



「ええと、この部屋にどうやって入ったんですか?」


 寝る前に鍵をかけたはずだよな?


「壁をすり抜けて入ったんでちゅよ~」


「はぁっ!? 壁を!?」


「そうでちゅよ~。妖精魔法のひとつ『忍法壁抜けの魔法』を使ったんでちゅ~」


「そ、そうなんですか……」


 妖精魔法!?

 忍法壁抜けの魔法!?


 訳が分からなさすぎるぞ!?


 それと、なんで魔法なのに忍法なんだよ!?


 どっちかにしろよ!?



「妖精魔法というのは、なんですか?」


「妖精だけが使える不思議な力のことでちゅよ~」


「妖精って、なんですか?」


「妖精の世界に住んでいる者のことでちゅ~」


「妖精の世界!? なんですか、それは!?」


「何と聞かれても困るでちゅ~。妖精の世界は妖精の世界でちゅ~。そういうものがあるとしか言いようがないでちゅ~」


「そうなんですか。では、あなたは妖精なんですか?」


「その通りでちゅよ~」


 漫画やゲームに出て来る妖精とは大違いだなぁ。



「なぜ妖精の世界から、ここに来たんですか?」


 自分の世界で、ゆっくりしてろよ。


「妖精の世界が爆発して消えちゃったからでちゅよ~」


「爆発!? なんでそんなことが起こったんですか!?」


「よく分からないでちゅ~」


 ええ……


「そうですか。それで、ここに来たというわけですか」


「その通りでちゅ~。妖精魔法のひとつ『忍法異世界転移トラックの術魔法』を使ったんでちゅよ~」


「そうなんですか……」


 忍法異世界転移トラックの術魔法!?


 なんだそれは!?


 忍法なのか術なのか魔法なのか、ハッキリしろよ!?


 それと、トラックって、なんだよ!?


 かれたら異世界に転移するのか!?


 訳が分からねぇぞ!!



「ケガとか、ヤケドとかはしてないんですか?」


「してないでちゅよ~」


 してないのかよ!?


「世界が爆発したのに、よく無事でしたね」


「妖精は頑丈なんでちゅよ~」


「そうなんですか……」


 いくらなんでも頑丈すぎだろ!?



「では、私に用があるというわけではないんですね?」


「その通りでちゅ~。居心地が良い場所に来ただけでちゅ~」


「分かりましたよ」


 俺に危害を加える気はないみたいだな。

 良かった。



 さて、こいつをどうしようか?


 とりあえず、警察に引き取ってもらおうかな?


 110番しようか。


 いや、それはどうなんだ?


 危害を加えてきたわけでもないからなぁ。


 迷惑になるかな?


 どうなんだろう?


 う~む……



 あっ、そうだ。


 警察署で相談してみようかな。


 うん、それが良さそうだな。



「あの、私、ちょっと出かけてきますね」


「どうぞでちゅ~」


 身支度を整えて、家を出た。



 警察署の前にやって来た。


 うわっ!?

 なんだ!?

 ものすごく人がいるぞ!?

 何があったんだ!?


「おい、なんとかしてくれよ!!」

「刀を持っているんだぞ!!」

「どう見ても人間なのに妖精と言い張る変態なのよ!!」

「さっさと逮捕しなさいよ!!」


 集まった人たちが、そう叫んでいる。


 えっ!?

 まさかあの人たちの家にも妖精がいるのか!?


「皆様、落ち着いてください! 現在、妖精の数が多すぎて、警察では対処できません! いまのところ、妖精に襲われたという報告はありません! ですので、妖精は放置しておいてください!」


 集団の向こう側から声が聞こえてきた。


 どうやら警察の方が拡声器を使って呼びかけているようだ。


 ええ……

 対処できないくらいいるのかよ……


「ふざけんな! 何かあってからじゃ遅いんだぞ!!」

「うちには子供がいるのよ! なんとかしなさいよ!!」


「申し訳ありませんが、どうにもなりません! お引き取りください!」


 これはどうしようもないな。


 帰るか。



 家に着いた。


 妖精はまだ座っている。


 そんなにここが気に入ったのかな?


「むっ、これはでちゅ~!?」


「どうしたんですか!?」


「どうやら妖精の世界が直ったみたいでちゅ~」


「ええっ!? 直るんですか!?」


「直るでちゅよ~」


「そ、そうなんですか……」


「というわけで、帰るでちゅ~。世話になったでちゅね~」


「いえ、お気になさらずに」


「では、さらばでちゅ~」


 妖精が消えた。



 結局、なんだったのだろうか?


 まあ、いいか。


 せっかくの休みだし、のんびりしよう。



 次の日。


 朝起きると、また妖精が座っていた。


「な、なんでまたいるんですか!?」


「また妖精の世界が爆発したからでちゅ~」


「またですか!? なんで爆発したんですか!?」


「まったく分からないでちゅ~」


「ええ…… 原因を究明してくださいよ」


「面倒だから嫌でちゅ~。他の妖精がやると思うから放っておくでちゅ~」


「ええ…… そんなんで良いんですか?」


「直るから問題ないでちゅよ~。ん? どうやら直ったようでちゅね~。それじゃあ、さらばでちゅ~」


 妖精が消えた。



 その後、何度も妖精がやって来た。


 そのうち、みんな気にしなくなった。


 めでたしめでたし?


 おしまい。

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妖精が出現する家 三国洋田 @mikuni_youta

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