この恋の終わりには

ななみん。

第1話

「じゃあいこっか!」


 学校帰り、今日もアサミと手をつないで歩く。

 それはこの世のどんなものよりも温かくて柔らかい。

 カンカンカンと鳴り響く遮断器の警報音なんて気にならないし、その待ち時間がただひたすらに愛おしい。

 それは誰にも言えない至福の時。


 なにをするにもいつも側にいるし、部活動だって同じでなにもしていない。

 なによりボディタッチの頻度が多い。

 私にはそれとなく、アサミに好かれている確信めいたものがある。


「そういえば、ユーリはあれ知ってる?」

「あれ?」

「妖精さんの話だよ!」


 この妖精というのはもちろん実際にはいない。

『片思いをしている』=『妖精が見えている』という意味合いで、なぜだか校内中で流行ってしまっているのだ。


「それがどうしたの?」

「ユーリには見えてるのかなーってさ。そこんとこ聞かせてよ?」

「まあ、うん……見えてる」

「実は私もなんだっ!」


 アサミは嬉しそうに私の腕に抱きついた。

 そうして迎えたバレンタインデー。

 内心緊張しながらチョコレートの交換をする。


「あのね、アサミ!」


 私、こんな大声出るんだ。

 自分に驚きつつ、思い切って抑えていた感情を伝えようとした。


「待って待って。先輩に本命渡してきたいからまたあとで!」


 走り去っていくアサミの後ろ姿に膝から崩れ落ちる。

 ああ、アサミは私を純粋に友人として好きだったんだ。


「妖精、やっぱり気のせいだった」


 今日もアサミと手をつないで帰る。


「もしかしてなんかあったの?」

「ううん。そんなことよりさ」


 カンカンカンと耳障りな遮断器の警報音が鳴り響く。

 もう、今までのように自然に振る舞えない。


 そのはずだったのにずるいよ。


「私だけには嘘つかないで?」


 唐突にアサミが至近距離まで近づいてきて、心配そうな表情をした。

 吐息を感じ、口づけしてしまえる無防備な距離なのにただただ遠い。

 そのはずなのに、目の前には無理やり消したはずの妖精がくっきりと浮かび上がる。


「私がアサミに嘘ついたことなんてないでしょ?」

「あー、それもそうだよね!」


 笑顔を浮かべるアサミを抱きしめてしまえたらいいのに。

 通過していく電車をひたすらに見つめながら、しっかりと握られた柔らかな温もりに束の間の夢を見ていた。

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