学院案内2

〜学舎 1階〜

《2人は学舎の廊下を歩いていた》


ビスケット「この先にあるのが、図書館です」

「うちの図書館はすっごく大きいんですよ!王都から学者さんがやって来るくらいなんです」


スピカ「王都から!」


ビスケット「ふふん。これもヴァニラ様の威光によるものです……さて、少し見学しましょう」


《大きな木の扉を開く》


〜図書館 1階〜

《本棚がずらりと並んだ大きな空間。2階、3階はバルコニーになっている》


スピカ「わぁ……」


ビスケット「これだけあると、目的の本を探すのは少し大変ですけどね。検索機がありますから活用してみてください」

「あそこのカウンターにいるのが、司書のリラさんです」


《萌黄色の髪の、眼鏡をかけた女を指す》


ビスケット「リラさん、ごきげんよう〜」


リラ「……ん?あら、ビスケット」


ビスケット「新入生のスピカちゃんです」


スピカ「はじめまして」


リラ「初めまして。この図書館を管理しているリラ ビリジアンよ」

「これからたくさん使うことになるでしょうから、簡単にルールを説明するわね」


リラ「本は学院内なら持ち出し可能。私のところで手続きをしてね」

「指定期間までに返却がなかった場合は通知するけれど……まあ、結構手間ね。誠実であることを願うわ……どこかのドジはよく忘れてたけど」


ビスケット「お、おほん!」


リラ「あと、本はここで読んでいってもいいわ。ただし元の場所に戻してから帰ること。棚の番号と本の位置は背表紙に書いてあるから心配いらないわ」

「こんなところかしら。質問はある?今じゃなくてもいいけれど」


スピカ「えっと……大丈夫です、ありがとうございます」


リラ「わかった。これから頑張ってね」


スピカ「はい!」


〜学舎 1階〜

ビスケット「リラさんは厳しそうに見えますが、人の世話を焼くのが好きなんです」

「学院生時代は、私の面倒も見てくれたんですよ」


スピカ「ビスケットさんも学院生だったんですか?」


ビスケット「ええ。ここには身寄りのない子もいますから……学び終えたあとも、ここに残れるように手配してくれるんです」


スピカ「そうなんですね……」


ビスケット「さて。次は医務室に行きましょうか」

「すぐ近くですよ〜」


《図書館からそう離れていない扉をノックする》


???「はい」


ビスケット「おっと……幸か不幸か」


《部屋の中へ》


〜医務室〜

《藤色の髪の女が、置かれたソファに腰掛けてくつろいでいる》

《その向かいには、茶色の髪の少女が座っていた》


ビスケット「ごきげんようミスト先生、ローシェンナちゃん」


ミスト「ごきげんよう」


ローシェンナ「ご、ごきげんよう……」


《ミストはゆったりとくつろいだままだが、ローシェンナの方はあわあわと緊張している》


ビスケット「医務室は複数の先生が交代しながら運営しているんです。今はたまたまミスト先生の担当だったというわけです」

「道理でローシェンナちゃんしかいないわけですね!」


ローシェンナ「えっ!?」


ミスト「人が少ないのはいいことだわ。ローシェンナは私の手伝いをしてくれるから、歓迎しますよ」


ローシェンナ「……あ!えっと、私はローシェンナ……えと、新しく来た……のかな?」


スピカ「うん。私はスピカ。よろしくね」


ローシェンナ「よ、よろしくね!」


ミスト「……私は薬学の授業を担当しているわ。専門分野ですから、選ばない限り教えることはないでしょう」


「もちろん、個人的に薬に興味があるというのなら大歓迎よ。私は普段、薬品庫にいるから」


ビスケット「ご覧の通り、ミストさんは学院で2番目くらいに気難しいですが、すごい方なんですよ。お薬……界?では名を知らぬものはいないほどです」


《ミストはビスケットの言葉を気にかけていない。全く興味がない様子》


ビスケット「怪我をしたり気分が悪かったりしたら、遠慮なくここへ来てくださいね!」


〜植物園〜

《学舎を出て、寮とは反対側へ。色とりどりの花が見える》


ビスケット「こちらは植物園!主に、魔法や薬の材料になるものを栽培しています」

「管理人さんを探しましょう」


《植物園を歩き回っていると、ヒマワリ色の髪の、作業着姿の女を見つける》


ビスケット「いました、アザレ先生です!お〜い」


《女は三つ編みを揺らして振り返る。水色の瞳と目が合う》


アザレ「おう、ビスケット。噂の新入りか?」


スピカ「はじめまして、スピカです」


アザレ「はじめまして、あたしはアザレ。薬学系の授業をやってるよ。あと、植物園の責任者だ」

「ここで育ててる植物たちは授業で使われることもある。あと、向こうには学院生用のスペースもあるんだ」

「好きに見て回っても構わないが、毒性の強い植物がある場所には近づくなよ。入口は閉じてるけど」

「あと無駄話かもしれないが、植物は大切にな。こんなところか」

「環境が急に変わって大変だろうが、あたしたちがサポートする。ゆっくり慣れていけよ」


スピカ「はい、お願いします」


《アザレは植物の世話に戻る》


ビスケット「さて、私が案内するのは次で最後ですね」


《ビスケットは、離れた位置にある白い建物を指す》


ビスケット「少し歩いて丘を登ると、星霊殿です。かの星霊女王の居所ですよ」


〜丘の小道〜

《学院を囲う塀の外。道の両側は斜面になっている》


スピカ「星霊殿はどうして離れた場所にあるんですか?」


ビスケット「えっと……儀式のために人気を避けたいからだそうです。他の魔力が入り込まず、集中を削がれることも、逆に魔力の波に巻き込まれることもないように」


スピカ「星詠みって繊細な術なんですね」


ビスケット「星を通じて神の言葉を聞くとなれば、そうなのでしょう。だからこそ星詠みを行える術者は手厚く保護され、星詠みが住まうこの地に平穏があるんです」


スピカ「どうして星詠みは学院を選んだんでしょう」


ビスケット「何故でしょうね。本人に聞くのは……少し、気が引けてしまいます」


《話している間に、荘厳な建物の前へ。どこか冷たさを感じさせる白色である》


ビスケット「うう、何度来ても緊張してしまいますね……粗相がないようにしないと」


《ビスケットに続いて、星霊殿の中へ》


〜星霊殿〜

《床は黒い大理石。明かりが反射している。足を落とせばカツンと音が鳴る》

《服の擦れる音、2人分の足音、微かな呼吸音。それらがやけに大きく聞こえた》

《何となく、言葉を発することができない》


スピカ(預言者……私でも聞いたことがあるくらい、有名な人。一体どんな人なんだろう)


ビスケット「お、恐らく、この先の大広間にいるはずです……」


《声量は内緒話をするような程度》

《玄関を真っ直ぐ、大きな扉を開く》

《その先には大きな空間。天井は高く、天窓からは陽光が降り注いでいる》

《絨毯が敷かれた道の先、小さな階段を登った先には空の玉座がある》


ビスケット「まあ、不在でしょうか?」


《ビスケットが玉座に近づいていくので、スビカも後を追う》


???「たった今手が空いた」


《ガチャッとドアの音。玉座の右奥に扉があり、それが開いたらしい》

《現れたのは月色の髪の女。紺色のローブを身にまとい、神聖な雰囲気がある》


ビスケット「ヴァニラ先生。お忙しい中ごめんなさい」


ヴァニラ「別に構わない。挨拶だけだ」

「スピカ。お前へ招待状を送った。応じてもらえ光栄だ」

「私はヴァニラ、星詠みだ」

「これで十分だろう、ここに来る者などほぼいないのだから」


スピカ「あ……よ、よろしくお願いします」


ヴァニラ「……ああ」

「スピカ」


スピカ「へっ、ひゃい」


ヴァニラ「アルクトゥルスという名を知っているか」


スピカ「あるく……、わからないです」


ヴァニラ「そうか。ならいい、忘れろ」

「名前は所詮記号に過ぎない」


ビスケット「えっと、それじゃあヴァニラ先生、失礼しました」


スピカ「失礼しました」


《一礼をして、そそくさと部屋を出る》


ビスケット「……ふぅ、無事ご挨拶が完了しました」

「何を隠そう、学院で1番気難しいのがヴァニラ先生なんです……」


スピカ「そうなんですね」


ビスケット「星霊殿を訪れることって本当に少ないんです。その上ヴァニラ先生とお話する機会なんて」


スピカ「さっきも疲れていそうでしたし、あまりお喋りって雰囲気にはならなさそうですね」


ビスケット「全くもってその通りです。お仕事、大変なんでしょうね……」

「さて、とにもかくにも。重要な施設の案内は終わりました。他は自分で自由に見て回ったり、お友達に聞いてみたりしてください!」

「私は普段、学舎1階の職員室にいます。お話したいことがあったら気軽に声をかけてくださいね!」


スピカ「はい、ありがとうございました」

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