KAC20253 ある切っ掛けで、あふれ出す心。
久遠 れんり
日常に潜むもの
ある日の事、私たちは撥ねられた。
それは高校生向けのイラストコンテストに応募するため、美術部員が追い込みに掛かっていたとき。
「アクリル買ってきて」
「何ミリですか?」
近くにいた東陵君が返事をくれた。
だけどおかしい。
「何ミリって、十二ミリくらい?」
「結構分厚いですね、ホームセンターにあったかなぁ?」
「ちょっと待て、
「アクリル板でしょ?」
私はため息を付く。
「皆絵を描いているの、そんな所にアクリル板を買ってきてどうするの?」
「さあ? 何に使うんですか?」
私はがっくりと力を落とす。
「美術部でアクリルなら絵の具でしょう? 聞くならガッシュですかとか?…… もう良いわ」
そう言いながら、文化祭の飾りにはアクリル板を使った気がする。
とりあえず、無視をして職権乱用をする。
夏で先輩達は消えて、二年の私が部長。
「買い物に行くから手伝って、
彼は同じクラスで同じ趣味。
彼女はいなくてフリー。
百七十二センチだけど、体は結構鍛えていた。
夏休み明け、プールの授業を、私たちはこそっと見に行った。
すると、いつものオタクっぽいイメージと違う、キラキラとした彼がいた。
その時、私の胸を彼がむんずと掴んで揉みほぐした……?
なにか卑猥ね…… 私の胸を撃ち抜いたがやはり正義かしら??
とにかく、私はその時から、彼が好きになってしまった。
そして、当然ながらヘタレな私は言い出せず、いーちまーい、にーまい、まだ告白できにゃいと、日めくりは捲られて、月日は過ぎる。
やっと来たチャンス。
先生には許可を取り、放課後残ることを許される。
学校から数分、近くの文房具屋さんへと向かう。
全くの無言で縦列……
住宅街で道が、狭いからねぇ。
横に並んで手を繋ぐなんて、夢のまた夢。
「天野買う物は何?」
「ああと、コバルトブルーとかアナロガス配色用にいくつか」
「それなら、セットを買おう」
そう言って、セットを見る。
それでまあ、楽しい時間は一瞬で過ぎてしまう。
多少がっくりとしながら、またとぼとぼと帰る。
今度は、私が前。
多少、お尻を振ってみたり。
そんな事をしていると、信号のない交差点。
横からくる方は一時停止。
ちらっとだけミラーは見たけれど、そのまま交差点へ入る。
「あぶない、涼葉」
背後から彼の声。
そして、衝撃と世界が回った。
学校の近く、信号のない交差点で一時停止を無視した車に撥ねられた。
狭い道で、結構なスピードを出していて、あげく、降りてきたと思ったら『飛び出してくるな』みたいなことを叫んでいる。
「痛あぁ」
私は軽い痛みと、道路にしては柔らかな感触に気がつく。
背中から私を抱えている腕。
だけど、その手は肘と手首の間に関節ができていた。
骨が皮膚を突き破り血も出ている。
流石にぎゃあぎゃ言っていたおばさんもそれを見て、悲鳴を上げて逃げようとして、あわてていたのだろう。目の前にあった家の壁に突っ込んだ。
やっと、しなければいけないことを思いつき、私は電話をする。
「事件ですか、事故ですか?」
「ひき逃げです」
「救急車は必要ですか?」
「彼の手が途中で折れてグニャグニャです」
なんて話をした。
ひき逃げと伝えたのがよかったのか、かなり早く来た。
「はっ、律くん。大丈夫? 手が変なところでグニャグニャよ」
「判ったから、振り回さないで……」
彼は、なぜか泣いていた。
尊い……
「いや、真面目に放して。涙が出るし、お尻の穴がきゅっとなるから」
そうして私たちは、学校に連絡をせず、救急車に乗った。
警官には、車を潰して泣いているおばさんが、彼の手を見て逃げたことを伝える。
タイヤマークが手前に合ったので、証拠になりそうだ。
彼の手は手術後、固定された。
昔の石膏と違い、プロテクター?
とにかく彼は、右手に機械化手術を受けて超人となった。
腕に金属製のプレートを装備、無敵のようだ。
泣いていた彼が、少し元気になったとき、聞いてみた。
「あのとき、私の名前を呼んだよね。名前なんて覚えてくれていたんだ?」
そう言うと彼は、飲みかけていたジュースを吹き出し、むせ込んだ。
「狙い通り」
私はサムズアップ。
「狙い通りじゃないよ。あーいや。結構前からお前のことが好きで、でも言えなくて…… ははっ」
そう言って照れる彼。
その姿を見て、私は思ったの。私も、心の内を伝えなければ……
「その時、私の心臓は喜びで止まってしまった。好きな人からの告白。嬉しすぎる」
両拳を胸の前で握り、感動していると聞かれた。
「そのナレーション何?」
「えっ?」
「好きな人からの告白って……」
どうやら口に出してしまったようだ。
「あー言ったとおり、わたしも、その…… 好きなの。あなたの体が……」
「はっ?」
「えっ?」
あの日見た光景、プールサイドで煌めくかれ。
飛び交う水しぶきと、その周りを飛び、喜んでいる妖精達が私には見えた。
つい本音が、おかしいわ私。
「その…… 手が上手く使えないでしょうから、私が何でも手伝うからね」
「いや手術して、プレートが入っているから、以外と大丈夫」
つまらないことを言う口を、塞いでみる。
彼の唇は、リンゴジュースの味がした。
KAC20253 ある切っ掛けで、あふれ出す心。 久遠 れんり @recmiya
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