灰色の君へのラブソング

ワッフルEX

第1話 灰色の日々

「ママ、パパ、だーいすき!」


まだ幼稚園に通っていた頃だった

両親が交通事故で、いなくなっちゃった


いっぱい泣いた。泣いて泣いて泣いた。喉がつぶれるまで叫んで、わめいて、心の全てを声にした…


そうしていたら、私は心を全て吐き出してしまった


何も感じない。何かしたいとも思えない。何かをする意味を考える気になれない…


次第に、私の目に写るものが全て、色褪せて見えるようになった


青空も、雲って見える


明るい部屋も、薄暗く見える


どれだけ周りが楽しそうにしていても、私はそういう風に見れなくなってしまった


私の瞳は、私の心は…灰色に染まっていた


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「ただいま」


私、雪見 奇跡キセキは玄関の鍵を開けて、誰もいないであろう家に向かってそう呟いた。もちろん返事はない


パパとママが亡くなり、私はパパのお姉さんである天衣由良ユラさんに引き取られた


今は由良さんと、その娘である従妹イモウトの天衣良実リミと一緒に暮らしている


ちなみに、この家の大黒柱は海外赴任中で、家にはいないが、長期休みになると毎回帰ってきてくれる


みんな優しくて、私のことを本当の家族のように迎えてくれた。そのことには感謝しているが、私が失ったものは代用できないもの


この穴は、一生埋まらない…


私は手を洗ってから自分の部屋に戻り、部屋着に着替えて、そのままベットに寝っ転がる


何かする気も起こらない。遊びたいとも、勉強しなきゃとも、なんとも。そうなると、脳は自然と眠りに付き始める…


そして、私は眠りに付く。そして、夜ご飯の時に起こされて、ご飯を食べて、お風呂に入り、眠る


朝起きて、歯を磨き、朝ごはんを食べて、中学に向かう。運動部の良実は、私よりも早く登校しているため、登下校は別々だ


そんな日々が、グルグル、グルグルと続いている。何も変わらない。何も埋まらない。何も得られない


意味なんてない、灰色の日常を…



ある日のこと、夜ご飯の時に、お姉さんから「親戚で集まりがあるけど、行きたい?」と言われた


良実はノータイムで「行きたい!」と答えた。そう言うと、お姉さんは予想していたらしく、視線はずっと私に向いていた


騎師キシさんも来るみたいだし。どうする? 興味がないなら…」


雪見 騎師…私に残された唯一の肉親…兄だ


「うんん…私も、行きます」


断ったら、由良さんが悲しい顔をしてしまうかもしれない。私自身、何がしたいかわからないのだから、周りが求める答えをすればいい


「そっか…わかったわ。そう連絡しとくわね」


「ねえねえ! お父さんも来るの?」


良実は子供っぽい性格をしている。天真爛漫で、明るくて活発。そういう部分に、私は救われているのかもしれない


少なくとも、大切な存在なのだと思う


「ええ、「なんとか一週間だけ休みをゲットした」って、子供みたいにはしゃいでいたわよ」


「やった! じゃあ、みんな一緒だね♪」


良実はそう言って、私に笑い掛けてくれた。明るくて太陽のような笑顔…なのだろう。私には、よくわからない



私の一族は、言ってしまえば大金持ちだ


私の父親も、かなり有名な会社の社長をしていたし、由良さんの旦那である「天衣天理テンリさん」も海外赴任のエリート社員…つまり、優秀な人材が多いいのだ


そんな親戚達が集まる…もちろん、それなりに豪華な場が用意されている。巨大な和風の屋敷…もともと、私の家だった場所だ


両親が亡くなって、父親の会社は年の離れた兄が引き継いでくれた。そして、この屋敷は別荘として残してくれたのだ


兄は社長業が忙しく、私の面倒を見ることができないと判断し、信用できる天理さんと由良さんに私を預けてくれたのだ


私が兄のことを考えていると、何の因果か、ちょうど兄を乗せた車がやってきて、黒スーツに身を包んだ兄が車から降りてきた


「おお、奇跡。来てくれたのか」


「お久しぶり、お兄様」


兄は私の瞳を見つめてから、少し寂しそうに笑った。きっと、私と目が変わらず灰色だったからだろう


兄は何も言わず、ポンと頭を手を置いてくれた。昔なら、少し嬉しいような、恥ずかしいような、そんな感覚を覚えたのだろうが。今は何も感じられない


「天衣さん、いつも奇跡がお世話になっております」


そう言って、兄は由良さんに軽く頭を下げる


「いえいえ。奇跡ちゃんは大人しくて良い子ですよ」


「大人しすぎるぐらい…」最後にそう呟いたように思えた。確かに私は大人しすぎる、自覚している


だって、私には行動する意志がないのだから


その後、良実にも軽く挨拶をして、私たちは兄と共に屋敷へと入っていった


ここで暮らしていた頃の稀薄になっている過去の記憶が、少しだけ蘇ったが、すぐさまそれは霧散した


今の私には、楽しかった過去のことすら、灰色に映し出される。それでも思い出したいとは、無意識的に思えないのだと思う


兄が宴会場の引戸を開ける。中には、年老いた会社の重鎮や、まだ幼い赤ちゃんを連れた夫婦など、様々な親戚が集まっていた


私の席は「天衣家」の隣になっていて、兄とは少し離れた席で、兄は心配そうな眼差しを向けながらも、渋々自分の席に向かった


私たちが最後の到着だったらしく、宴会はすぐに始まった。最初は少し真面目な雰囲気だったが、お酒が回ってからの大人たちは大はしゃぎで、私と良実は非難するように中庭に向かった


「みんな楽しそうだったね。私も早くお酒を飲んでみたいな~」


「うん。そうだね…けど、私、酔えるかな」


私は酔えない、少なくとも今のままでは。多分、お酒を飲んでも、私はただ眠くなるだけになる


けど、逆に酔えたとしたら、私はそこから抜け出せなくなるのだろう。そうしたら、多くの人に心配を掛けることになるのだろうか。それは、嫌かも


………


優しい風が吹く。5月の風は、暑過ぎず、寒む過ぎないためちょうどいい。隣に座る良実も、心地よさそうに目をつぶっている


私は空を見上げる。雲1つない青空…だけど、私の視界に映る空は…薄暗い灰色の空


今日も、何も変わらない。誰と出会って、何を感じたとしても、私の日常は灰色に染め上げられてしまう


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今日も変わらない帰路を歩き、下校する。良実は、いつも通り運動部があるため、帰宅部の私は先に帰る


楽しげな話し声、ゲームセンターから漏れでる音、都会の放課後は学生が溢れかえっていて賑やかだ


だけと、私はそれらに興味を持てない。私の世界では、それらも暗く悲しく映っているから、楽しそうに思えない


幸せそうな声の学生たちとすれ違いながら、何人かの友人同士で遊んでいる学生とすれ違いながら…私は下を向いて歩いている


私って、悲しい存在なんだ


久しぶりの感情は、とても良いものではなかった。それは、嫉妬ではなく、自分自身に向けた憐れみの感情


何をしても奥底では楽しいと思えない。誰と居ても、心のどこかで「どうでもいい」と思っている薄情者


世界から思いを失った、灰色の少女


呆れから、自分自身を鼻で笑う。自分が悲しい存在なのはずっと昔から分かっていたこと…何を今さら


「あの…」


誰かが私に声をかけてきた。普通、こういうのを初めてされた時は焦るものだろうが、今はとにかくすべてがどうでもよかった


私は目線をあげることなく、振り向いた。視界に映ったのは、私と同じ中学の制服を着た少年だった。しかし、下を向いているため顔は見えなかった


「よかったら、一緒にカラオケでも行かない?」


…初めて、ナンパされた

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