妖精さんを満腹に

みちのあかり

たくさんお食べよ

 はっ? なぜ俺の目の前に妖精が? 40にもなったおっさんの前にだ。


「妖精ってね、食べるものがいつも一緒なの。もう300年も生きてきたのにいつも同じなの。そこで食の多様性を進めるため、人間界と接触することになったのよ! 多様性のためにね」


 妖精だから多様性? フッ笑えねえな。


「とにかく、私に料理を振る舞いなさい! ジャパンは美食の国と聞いたわ。私を満足させたら願い事を一つ叶えてあげるから。これでも魔法は得意なのよ。ほら」


 手のひらに乗るくらいだった妖精は女子大生のような雰囲気の人型になった。


 まあ、いいか。どうせ休日。可愛い子とデートできると思えばいいよな。彼女もいないし。

 わざわざ金払ってレンタル彼女ってやつを借りてまでデートしたって自慢やつもいるしな。


 ましてや上司から無理やりキャバクラ連れていかれると思えば、この状況は全然ましだな。


「とりあえず、これ食うか?」


 俺は朝食用に買っておいた菓子パンを渡した」


「パンね。でも何か挟んである。んっ? 何これ! 美味しい! ねぇ挟んであるもの何?」


「ヤキソバだ」

「ヤキソバ? なにそれ。材料は?」


「材料? ああ、小麦粉だ」

「おかしくない?! パンも小麦粉よね!なんで小麦粉を小麦粉で挟むの? なんで炭水化物だけで作るのよ!」


「まあ、美味いからだろ」


 おかしいおかしいといいながらも完食しているじゃん。美味しいは正義だ。


「大きくなるとこれじゃ足りないわ。他においしいもの食べさせて」


 と言われてもな。コンビニいくか? いや、今の時間でも朝ラーならやっているか。


「ラーメン食うか?」

「ラーメン?! 伝説の食べものね」

「大げさな。じゃあ行くぞ」


 妖精界でものすごい噂になっているのか? スキップしながらラーメン屋に入っていったよ…


「じゃあこれ。『朝から満腹ラーメンセット』一つ」


 食えるのか? まあこいつが残したら俺が食うか。そう思い半ラーメンをたのんだ。


「美味しい。これは何でできているの?」

「さっき食ったヤキソバと一緒だ。麺だからな」


「じゃあ小麦粉なの! この四角いのは?」

「それはワンタンだな。小麦粉に水を入れて……」

「だから何で小麦粉に小麦粉を重ねる! おかしいでしょ! あっこれも美味しい! 肉を何で包んているの?」


「小麦粉だ。ワンタンと一緒」

「また炭水化物!」


「このパラパラした食べものは?」

「チャーハンか。そいつは米だ」


「米? ライスのこと?」

「そうだよ」


「これも炭水化物! おかしくない? おかしいよ!」


 おかしいおかしいと言いながらも全部たいらげているじゃん。


「まだ足りないけど、次はお昼ね」


 そう言ってラーメン屋をでた。



「お好み焼きなるものを食べさせなさい」


 はいはい。では出かけますか。

 チェーン店のお好み焼き屋に入ると、彼女はスペシャルメニューを頼んだ。


「この白い液体を飲むの?」

「いや、この鉄板で焼くんだ。貸して」


 焼いている所をじっくりと見ている。


「へぇ。なるほど。それでこの白い液体は何?」

「小麦粉だよ」

「また炭水化物!」

「モダン焼き頼んだからヤキソバも混ざるよ」

「またヤキソバ! なんで小麦粉と小麦粉!」


 だってお好み焼きだし。モダン焼きなんか頼むから。


 焼き上がったお好み焼きにたっぷりとソース、マヨネーズ、鰹節、青のりをかけた。


「き、木屑が動いている!」

「ベタな反応ありがとうございます! って、これは食べもの。材料は魚」


「やっと炭水化物以外がこの緑なものは?」

「海苔。海で取れる草だ」


「今度は海産物だらけか?、この柔らかく伸びるものは?」

「餅だな。モッチーズだから餅が入っている」


「餅とは?」

「米の加工品だ」

「また炭水化物か! なぜだ。生地、麺、具材、すべて炭水化物ではないか」


 納得いかぬといいながらも全部食べつくした。



「もう店には行かなくて良い。炭水化物以外のあっさりとした食事を所望する! 家庭料理と言うやつを食べさせてくれない?」


「いつまでいるんだ?」

「次で最後でいいわ」


「分かった。じゃあ作るか」


 と言っても簡単に作れるものしか出せん。いいよな。


「まあ、米は日本人の主食だから出させてくれ。他には炭水化物はほとんど使われていない」


「そう? じゃあいただくわ。この茶色のスープは何?」

「味噌汁だ」

「味噌スープ? 味噌の材料は?」


「大豆という豆だな」

「へぇ、豆なの? 中に入っている白いものは、」


「豆腐だ。大豆からできている」

「なぜ同じものを混ぜる! おかしいでしょ!」


 いや、普通だ。


「この細い野菜は?」

「もやしか。大豆の発芽した茎の部分だ」


「この腐ったものは?」

「腐っていない! 大豆の発酵食品だ。醤油かけて食え」


「この黒い液体? まさか!」

「ああ。大豆でできている」


「この茶色は?」

「おいなりさんのことか? 米を油揚げで包んだものだな。油揚げと言って薄く切った豆腐を油で揚げたものだ。厚いまま揚げるとそこの厚揚げになる。醤油かけて食べな」


「豆腐って……! また豆! 日本人おかしい! なぜ同じものしか食べない! 炭水化物、炭水化物、炭水化物かと思ったら、今度は豆豆豆豆豆! 多様性はどこに行った〜!」


 そう叫んで消えてしまった。

 おかしいか? んなことねえよな。

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妖精さんを満腹に みちのあかり @kuroneko-kanmidou

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